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桶谷 功「インサイト思考 ~人の気持ちをひもとくマーケティング」

社員の能力開発費、日本企業は米企業の20分の1…社員教育に莫大な投資する外資系企業

文=桶谷功/株式会社インサイト代表取締役
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欧米のグローバル企業の社員教育を知っておく必要がある

 マーケティングでもITでも、スキルが大事。欧米のグローバル企業は、社員のスキル教育に熱心、とお話ししてきましたが、そもそも社員教育がどういう位置付けにあるのか。現時点では自社や自分の教育環境と大きく違っていたとしても、そういう世界があることを知り、目標を描けるようになるのは大切なことではないでしょうか。

 今、世界で最も注目されている企業のひとつにアクセンチュアがあります。世界でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、日本でも急成長しているコンサルティングファーム。日本での就職企業ランキングでも急上昇しています。この企業では、年間10億ドル(1100億円)を社員教育に投じています。

 CEOのジュリー・スウィート氏は、「技術の変化を先取りし流れをつくれる」人材を確保し、知識・習熟度を高めるために、教育投資を十分にする必要があると語っています。

 私がかつて勤務していた外資系広告会社でも、アジア・パシフィック・リージョンでの教育、ロンドンのプランニング本部が主導する最新メソッドの教育、日本支社内での教育が、それぞれ年間3泊~7泊ぐらいホテルに缶詰めになって行われました。新卒の社員から、経営陣まで、階層ごとに教育プログラムが組まれているので終わることがありません。

 また、特筆すべきは、教育への参加が何よりも優先されていたことです。どんな重要なプロジェクトがあっても強制参加。その1週間程度の穴埋めは、組織全体でカバーするのが当然になっていました。

 私にとって、このマーケティング・プランニングの理論・実践を、勤務先の企業が体系的に教育してくれたことが、自分のスキル形成のなかで何よりも大きかったと感じています。グローバルで通用するマーケティング・スキルを教育と実践を繰り返すことで身に着けられたからです。

 いったんベースが出来上がると、それを基準にして、他のグローバル企業ではどのようなメソッドをもっているか簡単に理解できます。また、最新のデジタル系のプランニングでは、今までの何が否定され、何がまったく新しい概念として体系化されているか、といった動向も理解しやすくなるのです。

「社員教育」がなければ、どうするか?

 教育が、社員のスキルを高める。「ジョブ型」も「成果主義」も、教育を受けてスキルがあり職務を遂行できる人材があってこそ、です。これから成長していく企業で、教育をおろそかにする企業はないでしょう。 

 しかし、社員のスキルを高める教育に関心がない企業に勤務している場合は、どうしたらいいでしょうか? 残念ながら、経営トップが関心を持たない限り、教育は進みません。テレワークに否定的な社長がいる会社で、人事や総務が評価対象にならないテレワークを推進するわけがないのと同じ理由です。

 会社に頼れないとなれば、教育を受けられる企業に転職するか、個人で勉強するしかありません。個人で勉強するという観点では、最近はインターネットで、無料もしくは低額でマーケティングの授業を受けたり学習したりできるところが現れ、学びやすくなってきました。10分という空き時間に学べることを売りにしているサービスもあります。

 ただ、断片的な知識の寄せ集めやスキルのつまみ食いにならないよう、注意が必要です。できれば、「これだ!」という考え方や理論を見つけたら、完全に理解できるまで学習と実践を繰り返して、ぜひ自分のものにしてほしいと思います。これがいったんできれば、自分なりにアレンジできるようになりますし、新しい理論や手法を理解したり取り入れたりするときの基準になってくれます。スキルを高めていくためには、まずベースになる体系的な知識と、実践を通して得た経験が不可欠だからです。

 日本でも、2019年4月から「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」が始まりましたが、制度の利用者は414名にとどまっているといいます。いまは、高年収の規定を含め、「高度」なプロフェッショナルだけが対象になっていますが、これからはすべての会社員がスキルを持った「プロフェッショナル」になっていくべきだと思います。

「会社にいるのが仕事」という時代は、コロナで終わりました。時代の流れは、「職務を遂行するのが仕事」になっていきます。そのためには、誰もが「自分は○○のプロフェッショナルになる」という自覚や目標を持つことが大切です。そうすれば、スキルは漫然と学ぶものではなく、「〇〇のプロフェッショナルになるために不可欠なもの」として、しっかり身についていきます。

 今後、「働き方改革」や「労働生産性」の議論は、「効率アップ」のステージから「社員の能力アップ」のステージに移っていきます。経営陣は、まず、会社と社員の関係が大きく変わっていくことを認識する必要があります。

 社員一人一人のスキルが上がれば、生産性の向上だけでなく、創造性の向上も期待できるようになるでしょう。しかし、社員のスキルが上がれば、社員は「スキルをより発揮できる仕事や環境」を求めるようになります。会社は、そういう仕事や環境を用意することが何より大事になっていきます。つまり「会社が使いやすい人材」ではなく、「社員が能力を発揮できる会社」になる必要があるのです。

 この覚悟があり実践できた企業には、新卒・中途を問わず優秀な人材が集まります。そして、さらにスキルを磨き、自分の成長と会社の成長を同期していくのです。

(文=桶谷功/株式会社インサイト代表取締役)

●桶谷功(おけたに・いさお):(株)インサイト代表取締役 

大日本印刷(株)を経て、世界最大級の広告代理店 J.ウォルター・トンプソン・ジャパン(株)戦略プランニング局 執行役員。ハーゲンダッツのブランド育成などに貢献。2005年、著書「インサイト」(ダイヤモンド社)で日本に初めてインサイトの考え方を体系的に紹介。2010年に独立し、(株)インサイト設立。マーケティング全般のコンサルティングを行う。コンサルティング実績は、食品・飲料・日用品・クルマ・マンション開発・百貨店・ファッションEC・C2C・テック系サービスと多岐にわたる。インド・中国などでのインサイト探索・戦略開発や、イノベーション開発、独自メソッドの導入・教育も行う。他の著作に「インサイト実践トレーニング」「戦略インサイト」(ともにダイヤモンド社)など。企業・協会等での講演やセミナー多数。日本広告学会会員。グロービス経営大学院MBA講師。

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