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片田珠美「精神科女医のたわごと」

ソウル市長、自殺か…背景に韓国の超格差社会と、成功者への徹底的なバッシング

文=片田珠美/精神科医
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「Getty Images」より

 韓国の首都ソウルの市長で、次期大統領候補と目されていた朴元淳(パク・ウォンスン)氏の遺体が、7月10日未明、青瓦台(大統領府)近くの山中で発見された。

 朴氏は前日の9日午前に市長公邸を出た後、連絡が取れなくなり、午後5時15分ごろ、朴氏の娘が「父親が遺言のような言葉を残して家を出た。携帯電話の電源が切られている」と警察に通報していた。また、警察によれば「現在のところ、他殺が疑われる点はない」ということなので、自殺の可能性も考えられる。

 あくまでも朴氏が自殺したとすればの話だが、彼がそこまで追い詰められたきっかけは、元女性秘書が朴氏からセクハラ行為を受けたとして警察に提出した告訴状が8日に受理されたことだろう。

 自身が取り調べを受け、逮捕・起訴されれば、市長の地位も次期大統領候補として立候補する可能性もすべて失いかねない。たとえ逮捕されなくても、大スキャンダルに発展する恐れがあり、そうなればソウル市民からも韓国国民からもコテンパンに叩かれることは目に見えている。

 朴氏が所属する与党「共に民主党」では、2018年の安熙正(アン・ヒジョン)元忠清南道知事に続き、今年4月にも呉巨敦(オ・ゴドン)前釜山市長がMeToo(セクハラ)騒動に巻き込まれて辞任し、政治生命を絶たれている。もしかしたら、この2人のことが脳裏をよぎり、自分も大切なものを失うのではないかと喪失不安にさいなまれたのかもしれない。

 精神科医としての長年の臨床経験から申し上げると、何らかの喪失体験が自殺の危険因子になることは少なくない。経済的損失や業績不振、地位の失墜や予想外の失敗などに直面して、「自分はもうダメだ」と思い、目の前の出来事を「破滅的な喪失」と受け止めるわけである。

 しかも、失うものが大きければ大きいほど、「破滅的な喪失」と受け止める危険性も高くなる。朴氏の場合、ソウル市長という地位とそれに伴う収入、革新系のリーダーとしての人気と名声、さらに大統領になれるかもしれないという将来の可能性まで失いかねない。だからこそ、セクハラの疑いで告訴されたことを「破滅的な喪失」と感じたのではないか。

不祥事が発覚した成功者への猛烈なバッシング

 朴氏の喪失不安に拍車をかけたと考えられるのが、韓国における不祥事が発覚した成功者への猛烈なバッシングである。韓国の前大統領、朴槿恵(パク・クネ)被告への激しい糾弾は記憶に新しい。また、ナッツ姫として有名になった大韓航空の創業者一族のご令嬢、趙顕娥(チョ・ヒョナ)氏へのバッシングもすさまじかった。

 その背景には、米アカデミー賞作品賞を受賞した映画『パラサイト』で描かれた“超格差社会”があるように見受けられる。一握りの成功者がいる一方、どうあがいても成功者にはなれない大衆がいる。大衆は、日々怒りと不満を募らせているので、その分成功者への妬みとやっかみが強い。だから、成功者がスキャンダルを報じられて失脚すると、徹底的に叩いて鬱憤晴らしをする。

 そのすさまじさを思い描いて恐怖におののき、耐えきれなくなったのかもしれない。もしかしたら、2009年に汚職疑惑をかけられて自殺した同じく革新系の政治家、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領を思い出したのかもしれない。

 いずれにせよ、痛ましい限りであり、心からご冥福をお祈り申し上げます。

(文=片田珠美/精神科医)

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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