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いきなり!ステーキ大不振でペッパーランチを売却…追い詰められたペッパーフードの大勝負

文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント
いきなり!ステーキの店舗(「Wikipedia」より)
いきなり!ステーキの店舗(「Wikipedia」より)

いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスが、大きな動きに出た。傘下のステーキチェーン「ペッパーランチ」を投資ファンドに85億円で売却することを決めたのだ。売却で得た資金を不振の「いきなり!ステーキ」に投下して、てこ入れを図る。

 合わせて「いきなり!ステーキ」を中心とした114店の閉店と、200人の希望退職を募ることも発表した。ペッパーフードサービスは2期連続で最終赤字を計上するなど業績が悪化しているが、こうした施策で業績を上向かせたい考えだ。

 ペッパーフードサービスはペッパーランチを簡易新設分割で設立した新会社「JP」に承継していたが、そのJPを投資ファンドのJ-STARに売却する。売却額は85億円だが、JPの売上高によっては最大102億円まで増額されるという。

 ペッパーフードサービスはこれまで、「いきなり!ステーキ」とペッパーランチの2つの事業を軸に経営を進めてきた。「いきなり!ステーキ」は収益が悪化しているが、ペッパーランチは堅調に推移している。直近本決算である2019年12月期のペッパーランチの売上高は87億円と全体の1割にすぎず、8割を占める「いきなり!ステーキ」(571億円)と比べて事業規模は小さいが、セグメント利益はそれぞれ12億円、19億円となっており、利益率はペッパーランチのほうが圧倒的に高い。

 つまり、ペッパーフードサービスは収益性が高いペッパーランチを売却しなければならないほど追い込まれていたのだ。「いきなり!ステーキ」の不振で業績が悪化したほか、財務内容も悪化していた。19年12月末時点の現預金は1年前と比べて42億円少ない24億円まで減った。また、自己資本比率は2%まで低下していた。こうした状況を打開するため増資を実施したが、株価低迷で不調に終わっていた。そこでペッパーランチを売却することで資金調達を行うに至ったわけだ。

 ペッパーランチは1994年から事業を開始し、今年5月末時点で全国に189店を展開する。黒胡椒がまぶされたごはんや牛肉、コーンが盛られた「ビーフペッパーライス」(現在税抜き700円)を看板メニューに事業を拡大してきた。全体の価格帯は「いきなり!ステーキ」よりもやや低い。

 ペッパーランチはショッピングセンター(SC)への出店が多く、家族連れに人気だ。同じステーキ店の「いきなり!ステーキ」はビジネス街や駅前の路面店が多く男性客が多いという違いがあるため、すみ分けができていた。

肉ブームに乗り急成長

 少し話はさかのぼるが、ペッパーランチは12年ごろまでは低迷が続いていた。07年に心斎橋店で起きた女性客への暴行事件や、09年に複数の店舗で起きた食中毒事故で客離れが起きていた。ところが、13年ごろから客足が回復するようになった。既存店売上高は13年12月期が前期比8.2%増、14年が9.0%増、15年が10.2%増、16年が8.7%増、17年が8.2%増、18年が3.2%増と大幅な増収が続いていた。

 ペッパーランチは13年から業績が上向くようになったわけだが、この頃から「肉ブーム」が巻き起こっている。背景には、13年2月から米国産牛肉の輸入規制が緩和されたことや、15年1月に日豪経済連携協定(EPA)が発効し豪州産牛肉にかかる関税が大幅に下がったことがある。こうして訪れた肉ブームが追い風となったが、それに「アベノミクス」による景気回復も加わり、ステーキ業界は活況を呈すようになった。それに伴いペッパーランチは業績が上向くようになった。

 13年12月に誕生した「いきなり!ステーキ」もこうした追い風に乗ったほか、「立ち食い」で低価格のステーキを食べるスタイルが受けてマスコミに取り上げられるようになり、多くの客で賑わうようになった。それを受けて出店攻勢をかけ、店舗は倍倍ゲームで増えていった。

「いきなり!ステーキ」の躍進で、兄弟ブランドのペッパーランチにも注目が集まった。このことがペッパーランチの躍進の原動力にもなっただろう。こうしてペッパーランチと「いきなり!ステーキ」は共に大きく成長していった。

“共食い”で成長鈍化

 しかし、18年ごろから潮目が変わった。既存店売上高の伸びが続いていた「いきなり!ステーキ」は、18年4月に減収に転じた。その後も減収は続き、18年4月~20年5月まで26カ月連続で前年割れとなっている。通期ベースの既存店売上高は、17年は前期比23.1%増と大きく伸びていたが、18年は4.3%減とマイナスに転じ、19年は30.2%減と大幅マイナスとなっている。一方、ペッパーランチは18年が3.2%増と増収だったが、それ以前は8%超の増加率を叩き出していたことを考えると、失速感が否めない。そして19年は2.8%減とマイナスに転じてしまった。

「いきなり!ステーキ」が失速したのは、大量出店により「いきなり!ステーキ」の店舗同士で顧客を奪い合うケースが増えたことがある。特に18年は1年間で国内に202店をも新規出店し、急激に店舗を増やしている。国内の店舗数はこの1年で倍となる386店に拡大した。

 ペッパーランチが失速したのもペッパーランチ同士の競合が考えられる。ペッパーランチは18年に17店を新規出店し、155店に拡大した。19年は31店出店し、184店に増えている。こうした出店攻勢のなかで、ペッパーランチの店舗同士による競合が増えたことが失速につながったと考えられる。ただ、それよりも「いきなり!ステーキ」に食われたことが大きいだろう。

「いきなり!ステーキ」は、当初はビジネス街や駅前に出店し郊外ロードサイドには出店してこなかったが、17年に郊外ロードサイドに進出し以降は同立地への出店も進めている。それにより、郊外ロードサイド立地の「いきなり!ステーキ」が増え、SC立地のペッパーランチで競合するケースが増えていった。たとえば、郊外ロードサイド型の「いきなりステーキ新鎌ヶ谷店」(千葉県鎌ケ谷市、閉店)から徒歩8分、車で3分と近いところにあるSCに「ペッパーランチイオン鎌ヶ谷店」(同)があるが、両店は大きく競合していたといえる。

 また、「いきなり!ステーキ」はSCへの出店も進めているが、それにより両者が同じSCに入居するケースも増えている。たとえば、「いきなりステーキオリナス錦糸町店」(東京都墨田区)と「ペッパーランチオリナス錦糸町店」(同)は同じSC内にある。こうした「いきなり!ステーキ」とペッパーランチの競合で特にペッパーランチの業績が悪化したと考えられる。

ペッパーランチ売却で「いきなり!ステーキ」に資源集中

 こうしてペッパーランチの業績は再び悪化してしまったわけだが、それでも先述したとおり十分な利益は稼ぎ出せている。一方で「いきなり!ステーキ」を中心に114店の閉鎖を進めるため、閉店する店舗によっては顧客の奪い合いが解消されるので、ペッパーランチの業績は上向くだろう。

 ペッパーランチの売却において、おそらく、競合する「いきなり!ステーキ」を閉店することが条件になっていると考えられる。前出の「いきなりステーキ新鎌ヶ谷店」の閉店で近くにある「ペッパーランチイオン鎌ヶ谷店」の業績向上が期待できるというようなかたちでの閉店を進めていくのではないか。ペッパーランチ(JP)の売上高次第で売却額が最大102億円になるというのも、ペッパーランチの近くにある「いきなり!ステーキ」を閉店することで売却を受ける投資ファンドとしてはペッパーランチの業績向上が期待でき、ペッパーフードサービスとしては売却額が増える、というウィンウィンの関係を築けるようにするためだろう。

 ペッパーフードサービスとしては収益性が高く業績向上が見込めるペッパーランチを手放したくないところだが、「いきなり!ステーキ」の不振から来る全社業績の悪化によって、そうしなければならないほど追い詰められている。

 いずれにせよ、ペッパーランチの売却で得た資金を「いきなり!ステーキ」に投下しててこ入れを図り、業績を回復させたい考えだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

佐藤昌司/店舗経営コンサルタント

店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に勤務。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

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