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日本のHV、世界最大の自動車市場・中国を席巻の可能性…中国政府「HV優遇策」の神風

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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「トヨタ HP」より

 2021年から、中国政府がハイブリッド車(HV)を「低燃費車」に位置付け、優遇策を実施することが明らかになった。これまで中国は、HVをガソリン車と同等に扱ってきた。中国はHVの販売を増やすことによって、経済成長と環境対策を推進しようとしている。それは、HVに強みを持つトヨタ自動車をはじめ、日本の自動車メーカーにとって追い風だ。

 現在、中国市場においてトヨタをはじめ日系自動車メーカーの販売は回復している。その上で、日本企業が高性能のHV需要を喚起できれば、企業業績だけでなく社会と経済全体にもプラスの影響があるだろう。そう考えると、中国がHV重視の姿勢を示したことは重要だ。中長期的に考えると、自動車の社会的な機能は変わる。CASEの推進に加え、自動車は都市空間の一部としての機能を担うようになるだろう。そうした変化に適応するために日本の自動車業界はよりオープンなかたちで研究開発などを進め、世界最大の新車販売市場である中国でのシェアを高めることが求められる。

足元の中国自動車市場の回復状況

 1月以降、中国をはじめ世界の自動車の需要と供給は、新型コロナウイルスの発生によって急速に減少した。2月、中国の新車販売台数は前年同月比で79%減、3月は同43%減だった。感染対策のために都市が封鎖されて個人消費が大きく落ち込んだ。それに加えて、中国を中心に感染対策のために工場が止まり、供給も滞った。

 その後、中国では感染の拡大が小康状態となった。4月上旬から半ばにかけて、中国をはじめ世界的に消費と生産活動が持ち直し始めた。その結果、4月の中国の新車販売台数は同4%増に転じた。背景には、共産党政権が自動車販売の補助金を支給し、人々の“ペントアップディマンド(抑制されていた需要の回復)”を刺激したことや、インフラ開発のためのトラックなどの需要増加がある。さらに、中国政府はGDPの10%程度を占める自動車産業の支援のために大都市でのナンバープレートの発給制限を緩和した。そうした政策に後押しされ、5月の新車販売台数は同11%にまで持ち直している。現在、世界全体の自動車生産・販売市場を見渡すと、中国は最も持ち直しが鮮明になっている市場といえる。

 その一方で、中国のEV販売は低迷している。2012年から中国政府はEV販売を奨励するために補助金を支給してきた。その結果、雨後のタケノコのように新興のEVメーカーが設立され、過剰供給問題が顕在化した。さらに、EV生産の急増によって、充電スタンドの乱立も発生した。中国では車両通行量がほとんどない場所にまで充電スタンドが設置されている。それが続けば、企業の収益と財務内容は悪化し、債務問題の悪化に拍車がかかる恐れがある。

 昨年、中国政府はEVの過剰供給に歯止めをかけるために補助金を削減した。その結果、EV販売は急速に減少してしまった。補助金に依存してきたEVメーカーの業績は急速に悪化し、地場の新興企業を中心に淘汰が進んでいる。2025年に700万台のEV販売を目指してきた共産党政権の目標実現は困難だ。中国はEV販売の補助金を2年延長しつつ、HVを低燃費車として扱うことによって、自動車販売の増加による景気刺激と、環境対策を進めようとしている。

日本の自動車メーカーへの追い風

 一部の報道では、中国政府は燃費効率の良い上位5%の車種を低燃費車に指定するとの見方がある。それは、HVのプリウスを中心に高性能かつ耐久性の高いHVシステムを開発し、世界の低燃費技術開発をリードしてきたトヨタをはじめ、日本の自動車メーカーに追い風となるだろう。

 重要なことは、中国の消費者にとって日本の高品質な製品は憧れだということだ。トヨタは、レクサスブランドの車種を九州の工場で生産し、中国に輸出している。米中貿易摩擦が激化するなかでもレクサスの販売台数が増加したのは、中国の所得が増加し、多くの人がより良いモノを求め始めたことを示している。HVが低燃費車として扱われることによって、日本のHVへの人気は一段と高まる可能性がある。

 日本企業は、そうした変化を確実にとらえ、成長のチャンスにしなければならない。なぜなら、今後、世界の自動車業界は大きく変化すると考えられるからだ。新型コロナウイルスに効果のあるワクチンや治療薬の開発と供給体制の整備に左右される部分は多いものの、現状の市場環境が続くと仮定した場合、向こう1~2年程度の間は、コロナショックによって落ち込んだ新車買い替えなどの需要が中国などの自動車販売を支えるだろう。その後、5年程度のタームで考えると、自動車のCASE(Connected:コネクティッド、Autonomous:自動運転、Shared/Service:シェアリングあるいはサービス、Electric:電動化)化が進む。さらに長期の視点でみると、自動車は都市計画に組み込まれて行くだろう。

 世界最大の自動車市場である中国の自動車行政は、そうした変化に大きな影響を与える。2015年に発覚したディーゼル車の排ガスデータ不正問題の影響を挽回するために、世界大手独フォルクスワーゲンは中国のEV販売奨励を重視し、EV開発に注力した。しかし、中国のEV市場が低迷し始めたことによって、フォルクスワーゲンの業績不透明感は高まっている。それに加えて、同社は不正対象であったディーゼル車の購入者への賠償にも対応しなければならない。

重要性増すオープン・イノベーション

 中国がHVの普及を重視し始めたことによって、世界の自動車業界の競争関係にはかなりの変化が起きる可能性がある。今後も中国は環境対策の推進と消費の底上げを目指して補助金政策や新しい技術の導入を進めようとするだろう。それにうまく対応できるか否かによって、各国の自動車メーカーの優勝劣敗が一段と鮮明になるだろう。

 それ以外にも、国内外の自動車メーカーを取り巻く不確定要素は多い。新型コロナウイルスの発生によって、世界全体でデジタル技術の導入が急速に進んでいる。デジタル化の推進は、自動車業界の変化をも加速化させるはずだ。また、今後の感染動向によっては、再度、世界経済に相応の下押し圧力がかかる展開も排除できない。

 日本の企業がそうした変化に対応するには、研究開発体制を強化しつつ、技術やテクノロジーを他社と共有することによって新しい商品を生み出すオープン・イノベーションが重要だ。昨年、トヨタはHVの特許を無償で公開した。また、同社は米中などのIT先端企業との提携を強化している。それは、CASE、さらには、都市の一部としての自動車の役割を見据えた取り組みといえる。

 今後、自動車は移動の手段に加えて、居住やビジネス空間としての機能を併せ持つ大型のITデバイスとしての性格を強めるだろう。それに伴い、自動車の所有形態も個人による所有から法人所有というように変化する可能性がある。

 トヨタのように、そうした変化に積極的に対応しようとする企業の増加が、日本経済の持続的な成長には不可欠だ。日本の自動車メーカーが連携してCASEを見据えた技術を開発し、高付加価値の新しい商品を創造できれば、日本の自動車産業の存在感は高まるだろう。国内に米国のGAFAMや中国のBATHに匹敵するITプラットフォーマーが見当たらないことを考えると、自動車メーカーが中長期的な視点で競争力ある車種を開発し、需要を創出することは日本経済の安定に無視できない影響を与えるだろう。

 以上のように、各自動車メーカーやサプライヤーが産学連携などを進めることによって研究開発体制を強化することの重要性は高まっている。政府が民間企業の連携と創意工夫を引き出すために規制緩和などを積極的に推進することも欠かせない。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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