もちろん懸念されているのは発がんだけではない。10年に沖縄県糸満市の西崎病院・新城哲治医師が実施した疫学調査では、倦怠感、精神錯乱、意識障害、しびれ、めまい、視力障害、頭痛、不眠などさまざまな症状が報告されている。
基地局に関する情報が住民に開示されない不思議
朝霞市のケースでは、2つの重要な問題点がある。第1に電磁波によって健康上のリスクが生じるとする有力な説があることを、朝霞市とKDDIが住民に説明したのかという点である。第2に、両者とも基地局に関する情報、たとえば電磁波の放射範囲や予測される電力密度、将来的に基地局の仕様を変更する予定の有無、さらには両者の契約書などの詳細を開示していないことである(周波数帯と出力についてはKDDI側が開示した)。
朝霞市の富岡勝則市長に筆者が内容証明で送った公開質問状の回答によると、KDDIは今年 4月 20日 に携帯電話基地局建設のための公園占用許可申請書を朝霞市のみどり公園課に提出した。そして25日に朝霞市は「申請内容が許可基準等に適合している」として、許可を下ろしたのである。つまり緊急事態宣言で自粛要請が行われていた時期に基地局設置の手続きが急ピッチに行われたのだ。
朝霞市の説明によると、住民に対してKDDIが基地局設置に関する説明を行い、それを示す書面も提出されているとのことだった。ところが筆者が基地局の設置場所から直近に住む住民にKDDIから説明を受けたかどうかを取材したところ、「説明は受けていない」と答えた。そこでKDDIの広報部に事情を尋ねたところ、「基地局の建設にあたっては適切な説明を関係者の方々へ実施しています」との回答があった。説明会の日時と場所を明かさないので、広報部に繰り返し書面で質問したが、説明会を開いた日時と場所が明かされることはなかった。
朝霞市も、この点について、「住民説明の個別具体的な内容につきましては事業者に対し確認をお願いします」(質問状の回答)と回答を回避した。筆者が重ねて回答を催促すると、7月10日に次のようなメールが来た。
「住民説明につきましては、令和元年7月6日から令和元年8月6日までの間で実施されたようです。個別具体的な内容につきましては、事業者に確認をお願いします」
公園占用許可を申請する約1年前に住民に対して説明したというのである。
筆者は朝霞市に対して、KDDI基地局に関する情報などを全部開示するように、公式に情報公開請求を申し立てた。これに対して朝霞市は、「図面」「基地局位置が特定できる情報」「委任事項」「対応結果」「内容(対応相手の反応)」「工作物の高さ」「築造面積」など肝心な部分は非公開とする決定を通知してきた。
これでは朝霞市とKDDIがどのような契約を結んでいるのか分からない。住民が被曝することになる電磁波の正体すらも知ることができない。KDDIと筆者の話し合いの前提となる基本的な資料の提出を阻んでいるわけだから、筆者としては不服(異議申立)の手続きを取る以外に選択肢がない。
学校や公園など公有地への基地局設置問題は、今後増えていく可能性がある。それ以外の場所への設置はますます加速するだろう。そんな時代、電磁波による人体への影響を軽視することはできないのである。
(文=黒薮哲哉/「メディア黒書」主宰者)