就職氷河期、再来の兆し…採用人数半減ラッシュか、キャリア描き勉強した学生に“地獄”

「getty images」より

 ANAホールディングスは今月14日、新型コロナの感染拡大を受け、来年度入社の採用活動を中止することを決定した。グループ37社でおよそ3200人を採用する計画だったが、このうちおよそ2500人の採用を中止することになる。海外旅行客の激減でJALグループも5月に採用中断を決定。大学生に人気の航空業界の採用中断が顕在化しつつある。「リーマンショック時なみの就職難」「就職氷河期の再来」もささやかれる中、就職戦線は今後、どのように推移していくのか。労働ジャーナリストの溝上憲文氏に聞いた。

21年卒の採用、各社人事はギリギリまで悩む

――大手企業の採用活動が低調化しています。リーマンショック時の採用難、最悪の場合、就職氷河期の再来もありうるのではないでしょうか。

溝上憲文氏(以下、溝上) 2021年卒の就職活動に関し、DISCOの調査では5月下旬時点で7割弱は当初の採用予定数を維持するとしています。ということは変動があるのは3割近くです。もともと企業の採用予定人数は決まっていたのですが、コロナによって業界によって激震が走って、急遽中断、中止したところが出ました。

 IT業界など業績好調なところもあります。そういう業界では採用意欲はなおも旺盛です。リーマンショック時にはすべての業種が雪崩をうってダメになりました。今回は、緊急事態宣言下で休業要請が出たため、業績に影響を受けた会社と、受けていない会社に分かれています。そういうなかで21年卒に関しては、いろんな会社の経営者、人事担当者はギリギリまで考えたようです。

 その中で一番典型的だったのはANAとJALです。ANAは当初、5月に採用中断を発表しました。一方、JALは採用を続けるとしていましたが、ANAの発表の2週間後の5月末に中断することになりました。そして最終的にANAは今回、採用中止を決めました。

 両社とも、これまで内定を出した人は採用する方針ですが、それ以降の採用に関しては4~6月の業績を見て判断したと思われます。

 朝日新聞の『全国主要100社アンケート』(6月23日付朝刊)でも「来年春の採用計画をみなおしますか」という質問に対して、「予定と変わらず」と回答したのが68社、「採用数を減らす」が10社、「未定」が17社、「その他」が4社でした。

 「減らす」というのは業績が悪い企業です。航空、飲食、アパレル、宿泊というコロナの影響を受けた企業です。しかし6月時点で「未定」が17社もあったことも異常な状況でした。採用活動の慣例では「3月に会社説明会が解禁になり、6月に選考開始」ですから、「6月の段階で未定」というのは、企業が迷っていたことの証左です。「採用をゼロにはしないまでも、減らすかどうかを考えている」ために「未定」だったということです。

 大手企業各社は7月中に採用活動を終えると思われます。例年だと6月に終わっていましたが今年は、コロナを理由に3月に入って合同就職説明会などが全部中止され、企業説明会が延期になりました。急遽、オンライン説明会と面接に切り替えたので、6月に決まる予定だったのが7月に延期になったともいえますが、いずれにしてもDISCOも朝日新聞も全体の3割が採用への影響が出ていることを示しています。

今年は「売り手市場」の転換点、来年は「買い手市場」に

――昨年まで新卒大学生が有利の「売り手市場」でした。

溝上 一つのメルクマールとなるのが新卒求人倍率です。これによって「売り手市場」か「買い手市場」を見極めます。2020年卒は、リクルートワークス研究所の調べでは1.83倍でした。1.6を超えると「売り手市場」、それを下がると「買い手市場」になります。2009年のリーマンショックで落ち込んでから求人倍率は一貫して9年連続で伸びてきました。今年は同じくらいと予測されていました。

 「下がっても1.7代後半」といわれていたのですが、先ほどのDISCO、朝日新聞の調査からもわかる通り、3割が影響を受けていることからも求人倍率は間違いなく下がるでしょう。リクルートワークス研究所は例年4月にこの数値を発表しているのですが、今年は各社の採用動向が流動的なこともあり、今月下旬に発表するとしています。企業が迷っていて、正確な数字の把握にいたっていないということです。僕はおそらく1.6を切って、売り手市場と買い手市場のはざまになるのではないかと考えています。

 あと注目されるのは、中小企業がどうなるのかということです。多くの中小企業の採用はストップしています。オンライン化できない企業も相当数あり、ほぼ4~6月で選考が止まっているところがあります。例年だと、中小企業は大手の前に内定を出します。

 ところが今年は、半分くらいがオンラインに対応できずに大手企業に先行されてしまいました。それでも採用する企業は来年の春まで伸びるのではないかと思われます。

企業側だけでなく学生もコロナの影響で「天国と地獄」に二極化

溝上 さらに就職活動を行う学生も二極化されました。今年は東京五輪があるため、一部大手企業を含めて早期から選考を行っていたのです。五輪前にはほぼ終わらせようと、去年12月から今年1~2月には内定を出し始めていました。4月1日時点での就職内定率は去年より高かったと思います。いわゆる意識の高い学生たちは、昨年の夏のインターンシップを受け、対面で面接を受け、3月には内定を決めていたのです。一方で、これまでが「売り手市場」だったことでスロースターターの学生も結構多いのです。

――9年間に渡って売り手市場が続いていたので、そこまでガツガツしなくても大丈夫だろうという学生が取り残された?

溝上 大学のキャリアセンターの担当者に聞くと「売り手市場でなんとかなるだろう」という学生がコロナの直撃を受けているそうです。説明会延期や選考中断で、ずっとほったらかしになっています。企業も採用をオンラインでするのか、対面で行うのかに関する検討を続け、今に至っています。その結果、5月1日、6月1日、7月1日各時点の就活内定率は昨年より下がりました。

 またJTBや航空会社のキャビンアテンダント(CA)など人気企業・職種ランキング上位の企業が軒並み採用中断していることもあり、同業界を志望していた学生は泣いています。

 CAの就職率の高い大学のキャリアセンターの担当者は、「ANAを志望し、SPI試験を受けて、面談も1回はしたものの、そこで選考中断。JALでがんばりますと方針を転換したものの、その2週間後にJALも中断になった。2重のショックを受けた人もいる」と話していました。外資系の航空会社も全部厳しくなりましたからね。

――外資系航空会社も倒産しています。

溝上 LCCも含めて総崩れです。そのため観光系の学科があるところは大変みたいです。キャリアセンターの担当者は「大学としては無職のまま卒業させるわけにはいかない。ある程度、ホスピタリティーと語学があるので、サービス業に行って、中途入社でCAを目指すよう進路指導をしている」と話していました。

 外国語学科も同様に厳しいです。貿易関係では、中国語ができる学生は重宝されていました。インバウンド系では引く手あまたでした。現地駐在要員としての需要もあったのですが、これも全部ダメです。採用実績のあった企業から中止の申し出がでているようです。

――自分の中でキャリアパスを描いた上で、語学や観光の知識を学んできた学生が危機的な状況に直面している。

溝上 CAになりたい人は入学時からその学科に入学した学生が多いです。業績がいいところでサービス業だとニトリさんとかドラッグストア、医療介護になります。ホスピタリティーというとそう業種になります。厳しい状況だと思います。

2022年卒は「土砂降り」に

――来年以降はどうなるのか。

溝上 来年、2022年卒は各企業関係者は口をそろえて「土砂降り」と言っています。住宅関連会社の人事部長は「今年はなんとか予定数を採る。今まで内定辞退が発生した場合は、追加募集をしていた。だが、今回は採用予定数を満たなくても、あえて採用しない。7月で採用を打ち切る。来年はほぼ減るでしょう」と話していました。ちなみにリーマンショック時に、その会社は採用を半分にしたそうです。いつも500人以上採用しているのですが。

 住宅需要が先細る可能性が高いです。建設、住宅は五輪までは良いという前提できました。

――多くの五輪関係企業が事業計画のゴールを2020年にあわせていた

溝上 それが前倒しできたということです。ある企業の人事部は「東京五輪は中止という前提で、採用から事業計画を立案することになる。安易に五輪があるという前提で、もはや事業計画を組めない」と話しています。

 採用予定人数が半減するという事態も充分に考えられます。少なくとも、買い手市場に転換する可能性は高いです。広告、イベント、住宅、アパレルなどもろに影響を受けている企業は早期先行で内定した人は「大手は内定取り消しできませんので、採用する」としていますが、来年はもっと減る可能性が高いです。

 22年卒の採用計画は9月期決算状況を見て決定しますが、各企業ともコロナ感染の第二波を警戒し、厳しい事業計画になると見られています。

 そう考えると、今年就職浪人するのはまずいと思います。例年、留年したり大学院に入ったりして、再挑戦する学生も多かったのですが、注意する必要があります。

 今年の年末の失業率は4%に達するとの予測もなされています。ワクチンの開発がいつなのかということもポイントです。「ワクチンは最低でも1年半」というのが世界中の常識でした。つまり、1年半この状況が続くということは経済がもとに戻るのは1年半ということです。

 ワクチンの普及まで、この縮小経済を続けていかないといけません。そうなると持ちこたえられなくなる企業もでてきます。倒産に至らずとも、産業の再編が行われ、同時にリストラも始まると思います。

 すでに経営サイドから人事部に固定費削減の命令が出ている会社も多いです。固定費で重いのが人件費です。そして削減対象のなかで大きな比重を占めいているのが採用です。さすがに新卒採用に関しては、各企業とも大事にしているので守ろうとしているようですが、中途採用を中止している会社もすでにあります。しかし、来年はその新卒採用も減らさなければいけない可能性も出てくると思います。

(文・構成=編集部、協力=溝上憲文/労働ジャーナリスト)

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