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たけのこ爆売れ! 和牛売れ残り!?ーー新型コロナに喘いだ“仲卸業者”の本音

取材・文=編集部
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 新型コロナウイルスの影響で、普段の仕事がままならなくなった緊急事態宣言中の約2カ月間。閉店に追い込まれるほど窮地に立たされた飲食店が多い中、そこに食材を卸す「仲卸業者」(卸売業者と小売業者を仲介する業者)の経営状況に着目してみた。話を聞くと、いかに経営を盛り返していくか? という課題に加えて、その期間のおかげで生まれた新たなビジネスの手法もあったという。本稿では、普段取り上げられない仲卸業の経営者たちに集まってもらい、Zoomにてその胸中を語り合ってもらった。

A:青果物仲卸業 代表取締役(40代)

B:水産物仲卸業 専務(30代)

C:食肉仲卸業 社員(30代)

――仲卸業を生業とする、それぞれの仕事内容を教えていただけますか?

A 僕の会社はめずらしい野菜や高級野菜を中心とした仲卸業で、主な取引先は日本料理、割烹、寿司店、洋食店などです。

B うちは水産物、海産物がメインで、取引先は飲食店、居酒屋、イタリアン、昨年末からはスーパーとの取り引きも始めました。

C 私は食肉をメインに、取引先は精肉店、焼肉店、居酒屋、ステーキハウスなどです。

――緊急事態宣言を受けてからの売り上げはいかがですか?

C 取引先となる店舗が休業になったのでガクッと落ちました。昨年と比較すると、4月が55%減、5月に至っては60%以上の減益です。

A 僕のところは4月と5月は50%以上の減益で、まさに火の車です。時間を短縮して営業するお店もあったけど、お客さんが来るか来ないかは店側が判断できないから、特にうちに至っては高級食材が売りなので、仕入れた食材はまったく捌けませんでした。

B 薄利多売といわれるスーパーの仲卸ですが、緊急事態宣言以降もスーパーだけは営業を続ける店舗が多かったので、それでだいぶ助けられました。なので、売り上げは昨年と比較して30%減、それがなければ確実に50%以上は落ち込んでいたと思います。

――取引先が休業となれば、自動的に卸売業者から仕入れる数も少なくなるわけですよね。

A 毎日、豊洲に仕入れには行くんですけど、緊急事態宣言の期間は、これまでの活気が嘘かのように閑散としてました。品物も少ないし、卸売業者も仲卸業者も、互いにロスを出さないような量の食材でやりとりしていた感じで、新型コロナの影響で得た教訓は「欲を出すとロスが出る」でした。ほとんどの食材にはランク付けがあって、一番高値の商品は売れ残る傾向にあった。なので、得意先の卸売業者からは「まとめて安く売るから買ってよ」というお願いがあったり。

C ありましたね。特に高級和牛はまったく売れない時期でした。テイクアウト用にランクB~Cの和牛を仕入れて、という感じでしたね。店舗で食べるAランクの和牛をお弁当にしたところで、どうしてもコスパが悪くなるし、鮮度の問題も出てくる。たとえ鮮度がよかったとしても、炎天下の中で販売するかもしれない店舗では、食中毒の問題などもありましたので。

A テイクアウトといえば、うちはたけのこが飛ぶように売れたんですよ。飲食店がお弁当のテイクアウトを始めてから、ただの白いご飯よりも“たけのこご飯”のほうが売れ行きがよかったみたいで。取引先からも「たけのこ、もうないんですか?」と言われる率は非常に高かったですね(笑)。ほかにもタラの芽やコシアブラなど、春野菜は普段の時期よりも多く売れましたが、さすがにたけのこが飛躍的にバカ売れたからといって経営を軌道に乗せることなんかできませんので。

B うちはお寿司のテイクアウトは多少ありましたけど、気候的に暖かくなってきたこともあって、水産物はテイクアウトに向かないことを痛感しました(笑)。またAさんと一緒で、ウニやのどぐろ、キンキなどの高級水産物は、見たこともない価格まで値下がりしていましたね。「こんな値段だったら買っていきたい!」と思うんですけど、買っても売りさばけるかわからない。まさに「欲を出すとロスが出る」ですね。

――仲卸業にとって一番の大打撃とは、なんだったのでしょう?

A 取引先の規模が大きければ大きいほど厳しくなることです。例えばこの季節、本来ならホテルの宴会などで使用する1000人分の食材のキャンセルが出たりしましたからね。東日本大震災のときも大変でしたけど、新型コロナのような先が見えない感覚は創業以来初めてのことだったので、本当に仕入れの差し引きが難しかった。

C 休業から「店をたたむことにしました」という連絡が来ることはツラかったですね。経営が軌道に乗っていても、自転車操業の店は結構多いんです。人件費だけならまだしも、好立地で営業している店舗なんかは高額の家賃などもあるわけで。中には「店を移転することにしました」という取引先もありました。

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緊急事態宣言が敷かれていた時期は、高級食材も安価で販売されていた。

――自身をはじめ、社員の給与形態に変化はありましたか?

B うちは社員のモチベーションを保たせるために、契約もパートもバイトも減額はしていません。

A スーパーとの取り引きがあると強いですねえ……。僕の会社は自分と社長が給料10%減、パートの人たちは時給を下げてはいないけど、出勤する日が少なくなっていたから、自動的に減額という感じですね。

C うちは役員と肩書のある社員が10~15%減で、それ以外の社員とパートは減額なしで……ちょっとだけ愛社精神が芽生えました(笑)。

――200万円の持続化給付金は申請されましたか?

A もちろんです。ただ、「不備があります」と指摘されて、もう2回ほど戻ってきて、いまだ振り込まれていません。救済措置はありがたいんですが、やはり手続きにはどうしても時間を要してしまう。

B 僕の会社は先ほども話したように、昨年からスーパーと契約したことで、持続化給付金の条件である“5割減”にはなっていないんですよね。「スーパーは薄利多売で」と、どうこう言ったところで役所は売り上げの数字だけしか見ないと思うので、どうやって申請すべきか会計士と相談しているところです。

C うちはもう振り込まれたんですが……現状200万円で乗り切れる自信はありません。薄利多売とはいえ、スーパーの卸は正直うらやましいんですけど、元旦以外は働きづめの毎日になってしまい、そこへの人件費も割かなくてはいけなくなってしまうので痛し痒しです。

――この新型コロナウイルスの影響で、営業方針や経営のあり方などに変化は訪れましたか?

A 僕の会社は、主な取引先以外にも「法事」という一大イベントで利益を生むことが多かったんですね。しかし、「3密を避ける」という新たな常識によって4~5月の法事はすべてキャンセルになったし、田舎に行けば行くほど法事は50人前後が集まる昔ながらのイベントでしたけど、大人数で集まる法事そのものが見直されるんじゃないかなと感じています。

B 僕は市場に小売業者だけじゃなく、一般客を呼び込もうとチラシを作ってポスティングし始めました。市場は一般の方々が訪れても普通に買い物できますし、禁止はされていませんからね。ただ、加盟している組合のトップからは「今回は目をつぶるけど、おおっぴらにPRすることは控えるように」と忠告されちゃって。昔ながらの人たちは、そうした営業に文句を言いたがるんですよね。僕の店だけでなく、ほかの店にも目が向くだろうし、決して悪い営業だとは思わないし、しかも市場は風通しもよく、換気の面においても問題ない。市場によっては仕入れ情報がLINEでやりとりできるのに、ある市場では、いまだにファックスオンリーとか、古くさい体質が残ったままだったりするんです。コロナ収束後に一気に変わることはないと思うんですが、そうした旧態依然とした考え方が淘汰されていってほしいなとは思いますね。

C 確かに。私も組合に加盟していますが、「月々加盟金を支払っている利点はいったい何なのか?」と思わされました。組合によっては、持続化給付金とは別に数十万円の手当てが支払われたところもあるのに、私の組合は一切の支援はなし。卸業をやる上で組合に加盟することは必須かと思っていましたが、新型コロナのおかげで、その意義を問う良いきっかけにもなりましたね。

A 元も子もない話になってしまうかもしれないけど……仲卸業って、“他力本願”な職種だな、って感じちゃったんですよね。取引先が店を閉めると、うちも売れない。仮にうちから食材を買ってもらっても、その取引先が儲かっていようがいまいが関係ない。つまり、売り捌いたら、「あとはそっちでよろしく」みたいな。ただただ仕入れて売るだけの仕事なんだな、って。当たり前にやってきた仕事を悲しく感じてしまった瞬間というか……(苦笑)。とはいえ、生産者、製造者、メーカー、第2段階までしっかり見ていけるような考え方で、これからは仕事と向き合っていければと思っています。ただ、正直なところ、首の皮一枚でつながっている状況なので、向き合う前に店をたたむようなことにならないようにしないとですね。

(取材・文=編集部)

※これはサイゾーpremiumにて6月24日に掲載された記事の無料公開版です。

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