
2019年の日本シリーズで読売ジャイアンツ(巨人)を4タテで下し、3年連続日本一に輝いた福岡ソフトバンクホークス。過去6年で5度の日本一を遂げるなど、V9時代の巨人や黄金時代の西武ライオンズに続く、常勝軍団となっている。
強さの理由はいくつもあるが、大きな要因のひとつが「底辺拡大」だ。驚異のシーズン227奪三振(19年)を記録した千賀滉大投手、日本シリーズMVP(18年)を獲得した甲斐拓也捕手、第2回プレミア12(19年)で神業とも思える走塁を決めた周東佑京選手、西武とのクライマックスシリーズ(19年)で攻守にわたる大活躍を見せた牧原大成選手など、育成出身の選手たちが現在の黄金期を支えている。
今年4月に刊行された『ホークス3軍はなぜ成功したのか? 才能を見抜き、開花させる育成力』(光文社/喜瀬雅則)では、そんなホークスの組織論を育成の観点から分析している。
なぜ無名だった千賀投手を獲得できたのか?
ソフトバンクの育成システムが成功した理由は、ビジネス論にも通じる。プロ野球のチームを強化する方法として、メジャーリーガーやフリーエージェント選手を獲得することは有力な選択肢だが、同時にソフトバンクは育成システムの充実に力を注いだ。

本書の中で、王貞治球団会長からすべてを任された小林至編成育成部長(現・桜美林大学教授)の述懐は興味深い。現役時代、実力がないと判断された小林は試合で使ってもらえなかった。試合に出場しなければ、プロとしての実力は上がらない。そんな悔しさを経験した小林だからこそ、3軍に試合の場を設けるべく東奔西走した。元プロがフロントを務めたからこその成功が、本書では詳細に描かれている。
また、もうひとつ読み取れるのが「根本イズムの継承」だ。西武黄金時代に管理部長を務めた故・根本陸夫の武器は人脈だったと言われる。全国に情報網を持ち、球界関係者ではない人物とも積極的に交流を深めたのは有名な話だ。
根本の情の深さ。その継承は、千賀の獲得におけるエピソードで読み取れる。甲子園出場歴などない愛知の県立高校出身だった千賀の情報をソフトバンクの小川一夫スカウトにもたらしたのは、地元の運動具店の店主だったという。店主は「億を稼ぐ選手になる」と3球団に電話を入れ、その言葉に飛びついたスカウトこそ、根本イズムを叩き込まれた小川だった。
無名選手は競馬で言えば単勝万馬券。「めったにない万馬券を大事にしてこそ本物のスカウトだ」と、ヤクルトスワローズのスカウト部長を務めた片岡宏雄は何度も口にしていたが、そのセリフが思い出された。
こうした組織作りに加え、後半では、甲斐や周東、牧原ら育成から這い上がってきた選手の言葉から「人間ドラマ」が読み取れる。多くの選手や関係者に取材を重ねた本書は、チーム作りはもちろん、ビジネスにおける考え方や実践の方法についてもヒントを与えてくれる1冊である。
(文=小川隆行/フリーライター)