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無印良品、危険な変調…米国子会社が破綻、“ネット販売への対応遅れ”が顕在化

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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無印良品の店舗(「Wikipedia」より)

無印良品」のブランドで日用雑貨品などを販売する良品計画の米国子会社が、連邦破産法第11条(チャプター11、日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。その要因の一つとして、同社が世界的な経済のデジタル化に乗り遅れたことがありそうだ。

 近年、世界的にリアルな空間からデジタル空間での経済活動への大きな流れがある。2020年に入ると、世界各国で新型コロナウイルスの感染が拡大し、デジタル化のスピードはこれまで以上に加速している。特に3月以降、米国の無店舗小売の売上高が一貫して増加していることはデジタル化の進行を象徴している。

 当面、世界の主要国は新型コロナウイルスに対応しながら経済を運営しなければならない。人々が感染のリスクを避けながら日々の生活を営むために、EC(電子商取引)プラットフォーマーなどの社会的な重要性は増すことが予想される。良品計画がデジタル技術を活用して自社製品の魅力を世界の消費者に伝えることができるか否かは、今後の同社の業績に大きく影響することは間違いないだろう。

店舗運営の強化に腐心した良品計画

 2011年ごろから2018年半ばごろまで、良品計画の業績は堅調に推移してきた。世界経済全体が緩やかに回復する中で、同社は国内外で大型の店舗を増やして収益の増加を実現した。

 店舗運営を重視した事業戦略が奏功した背景の一つに、中国をはじめアジア地域の新興国の所得増加がある。アジア新興国の知人と話をすると、彼らが日本企業の製品を手に入れることに強く憧れていることがわかる。特に、生活雑貨品の分野において良品計画の製品はシンプルかつ耐久性の高い製品設計などが評価され、多くの人気を集めた。

 また、欧州でも無印良品ブランドはヒットした。無印良品の衣類、家具などの自然な風合いや使い心地の良さ、自然環境に配慮した商品開発は、環境保護への意識が高い北欧などの消費者から高く評価された。国内でも無印良品のファンは多い。

 問題は、店舗運営の強化が実績につながった結果、同社が店舗の運営こそが成長の源泉であるとの考えにのめり込んでしまったとみられることだ。それは、賃料コストが増加する中で良品計画が米国での店舗拡大に取り組んだことから確認できる。

 2013年、良品計画は米国の店舗数を増やし始めた。2013年の店舗数は従来から1店舗増加の5店舗となり、2015年には9店舗、2019年には17店舗と増えた(決算期末ベース)。2020年5月末時点での米国における店舗数は19だ。同社は世界経済をけん引してきた米国に大型店舗を構えて業績拡大につなげ、世界の日用雑貨業界のトップを目指そうとした。

 しかし、そうした事業戦略は同社の業績を圧迫した。原因の一つが、米国が過去最長の景気回復を遂げ、賃料が高騰したことだ。その中で同社は出店を強化し、賃料コストがかさみ、収益が悪化するという悪循環に陥った。国内外で人手不足が深刻となり、人件費が高騰した影響も大きい。それに加えて、中国経済が成長の限界を迎えたことや、外国為替相場での円高圧力の高まりなども同社の業績にとって逆風となり、2018年半ば以降、同社の業績先行きへの懸念が高まり始めた。

深刻なデジタル化対応への遅れ

 店舗運営にのめり込むあまり、良品計画は世界経済のデジタル化への対応が遅れてしまった。近年、米国や中国をはじめ、世界全体で消費の場がリアルな店舗からデジタル空間に移行している。そのスピードは加速化している。そうした中で良品計画は実店舗の魅力向上に取り組み続けた。良品計画にとって、最も重要なコアコンピタンスは店舗運営である、との発想はかなり強かったといえる。

 その一方で、米国ではアマゾンが日用品から生鮮食料品の販売までを行い、物流に大きな変革がもたらされた。多くの消費者がECのプラットフォーマーを通してモノを購入するようになった。デジタル化への対応が遅れた米国企業は淘汰され始めた。2017年には米国の玩具小売り大手トイザらスがチャプター11を申請した。翌年には、カタログ通販で米国の小売市場を開拓し一時は業界を席巻したシアーズ(旧シアーズ・ローバック)が、2019年にはカジュアル衣料大手のフォーエバー21がチャプター11を申請した。

 消費の現場としてのデジタル空間の重要性が高まるなかで、良品計画はネットストアの運営を進めた。しかし、2019年末にはシステムトラブルが発生し、ネットストアが使えなくなってしまった。ユーザーが安心して利用できるサイトを構築できなかったことはかなり致命的だ。

 それに加えて、2020年には新型コロナウイルスが発生し、良品計画をはじめ世界の小売業界の店舗販売は大幅に落ち込んだ。対照的に、オンラインでの小売りは増加している。多くの人が感染のリスクを防ぐために自宅にこもらざるを得なくなった。その結果、ECプラットフォーマーの重要性が急速に高まった。

 重要なことは、消費者にとって、オンライン(ネット)とオフライン(実店舗)の差がほとんどなくなっていることだ。小売業のなかには、AR(拡張現実)技術などを用いて、家具が自らの住空間に合うか、化粧品が自分の肌に合うかなど新しい消費体験を提供する企業が出始めている。

重要性高まるデジタル成長戦略の策定

 コロナショックを境にして、世界経済は大きく、かつ急速に変化している。それを考えるキーワードの一つがデジタルトランスフォーメーションだ。それは、デジタル技術の活用が人々のよりよい生き方を支えることを意味する。

 新型コロナウイルスに効果のあるワクチンや治療薬は開発段階だ。その効果や供給体制がどうなるか、不確実な部分がある。当面、世界経済は新型コロナウイルスに対応しなければならず、デジタル化は勢いづくだろう。感染終息後も、店舗への客足の戻りは鈍くなる可能性がある。

 そうした変化を象徴するのが、ECプラットフォームを提供するカナダ企業ショピファイだ。年初来、同社の株価は1.5倍超上昇した。それは、アマゾンの株価上昇率(約70%)を上回る。ショピファイは、サイトの作成、在庫管理、物流、決済など小売業の業務を効率化するシステムを開発し、顧客企業に提供する。顧客企業は利用するサービスの内容に応じた料金を支払う。ショピファイはアマゾンとの差別化のために、顧客企業が消費者のデータを追跡できるようにしている。それによって企業はデジタル空間上でのマーケティング戦略の効果を直に確認し、戦略の強化と修正に活用できる。また、顧客はシステム構築などにかかるコストも節約できる。すでに、ショピファイの導入企業数は100万社を超えた。

 店舗運営に注力してきた企業が、デジタル空間で強みを発揮することができるとは限らない。良品計画のネットストアが一時停止してしまったことは、同社がデジタル化を進めるために十分な力を有していないことの裏返しといって過言ではない。

 良品計画の経営陣は、冷静かつ客観的に自社の置かれた状況を理解すべきだ。経営陣は課題解決のためにデジタル技術に強みを持つ企業との提携などを進め、遅れを取り戻さなければならない。その上で同社が魅力ある商品開発を進め、デジタル空間上で人々が無印良品ブランド商品の良さを実感できる環境を整備できるか否かが、今後の業績と成長を左右するだろう。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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