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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

オーケストラ最大の楽器「コントラバス」は移動も大変…飛行機では4席分の料金が必要に

文=篠崎靖男/指揮者

 今から考えれば懐かしい話なのですが、当時はなんとか潜り込もうと必死だったのです。しかし不思議なことに、ホールの中に入ってしまえば誰にも文句を言われることはありませんでした。ステージにいる楽員も、「きっと誰かの知り合いだろう」と思っていたでしょうし、彼らも学生時代には同じことをしていたのかもしれません。

ウィーン・フィル、驚愕のピアノ移動の手法

 そんなウィーン・フィルは、「世界最高」と称されているオーケストラですが、意外なことにリハーサル時には、アンサンブルや音楽が合わないことも結構あったりします。それでも、コンサート本番では見事な演奏を披露していました。そんななか、ピアノ協奏曲を聴く演奏会がありました。最初に短い序曲があり、2曲目がピアノ曲でした。

 ここで説明が必要となりますが、コンサートホールで使用するピアノは、通常のグランドピアノに比べてかなり大きく、「コンサート・グランドピアノ」と呼ばれています。たとえば、日本を代表する楽器メーカー、ヤマハの「コンサートグランドCFX」などは、全長2.75メートル、重量は491キロもあり、運ぶのも大変です。

 新しい音楽専用ホールでは、舞台裏からステージへの大きなドアがあるので、ピアノは舞台裏に置いておき、必要な際にステージに運び込めるのですが、大概のホールでは、ピアノを使用するプログラムの場合、最初からステージの端に置いておいて、ピアノ用の台車のようなものを使って、何人かのスタッフでステージの前面に運びます。ピアノ移動のために、一部の弦楽器の椅子を一旦移動する作業も加わりますが、どれだけスムーズに、観客をイライラさせないように短時間で済ませるかが、ステージ係の大きな役割で、彼らもプライドを持ってこだわっています。

 ところが1870年1月に開館したウィーン・フィルの本拠地、ウィーン楽友協会ホールの舞台裏は、人がすれ違うのもギリギリでピアノを置くことができず、独特なステージの形状のため舞台上にも簡単に置いておくこともできないのです。チケット入手が世界一困難なコンサートなので、なんとか多くの観客の要望に応えようと、ステージ上にまで観客の座席を置いているので、ピアノを置く場所はまったくありません。

 そこでどうするかといえば、屈強な2人のステージスタッフがピアノの脚を外し、楽器を立てて、なんとか舞台裏の狭い通路を通し、そのままステージまで運んでくるのです。今はどうなっているのかは存じませんが、ものすごい力です。そのあと、ピアノの脚もステージ上でつけ直して準備完了となるのですが、僕も初めて見た時には、すっかり度肝を抜かれてしまいました。

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