
ロシアのムラシコ保健相は8月1日、新型コロナウイルス用ワクチンの臨床試験が完了したことを明らかにした。8月中に承認される見通しで、10月から医療従事者などに大規模に投与する方針である。実用化されれば世界初のワクチンとなることから、ロシア国内では、1957年に打ち上げた世界初の人工衛星「スプートニク」になぞらえる風潮が高まっている。
新型コロナウイルス用のワクチンについては、世界全体で160以上の計画があり、25のプロジェクトで臨床試験が実施されているが、これまで最も進捗が進んでいるとされてきたのは、オックスフォード大学と英アストラゼネカである。オックスフォード大学は現在第3段階の臨床試験を行っているが、ロシアは第3段階の臨床試験を行わずに承認手続きに入ることから、欧米から効果や安全性について疑問の声が上がっている。
新型コロナウイルスは、インフルエンザに比べて人の体内であまり増殖せず、抗体ができにくい。このため、新型コロナウイルスの遺伝子の一部(細胞に侵入する際に利用するSタンパク質の部分)を風邪の原因となるアデノウイルスを弱毒化したベクター(運び手)に載せて体内に注入して、抗体を大量につくり出す手法が有力視されている。
ロシアとオックスフォード大学はともにアデノウイルスワクチンである。ロシアのワクチンは2度にわたって投与する仕様だが、一度投与すると、アデノウイルスそのものに対する抗体もできてしまうことから、その後投与を重ねても、ワクチンの効果が発現しないとされている。
アデノウイルスワクチンを投与すると、発熱や倦怠感、肝機能障害などの副作用が生じやすいという問題点もある。オックスフォード大学の第1段階の臨床試験で副作用が出たことが報告されている。中国でアデノウイルスワクチンを開発しているカンシノ・バイオロジクスの第1段階の臨床試験では、発熱や倦怠感、頭痛といった副作用と見られる症状が治験者の5割に上ったことから、カンシノ社との共同開発者である中国の中央軍事委員会は6月25日、このワクチンの投与を人民解放軍内に留める決定を下した。
臨床試験はあくまで管理された環境下で行われるものであり、たとえ臨床試験をすべてパスしたワクチンでも、期待外れに終わったケースが少なくなかった。ワクチンの真価が本当に明らかになるのは、広く一般に接種されてからだが、臨床試験の段階から問題ありだとしたら、結果は推して知るべしだろう。
「ワクチン忌避」の問題
ワクチンについては、「ワクチン忌避」という古くて新しい問題がある。米CNNが5月に実施した世論調査によれば、新型コロナウイルスを予防するワクチンが低コストで幅広く利用可能になったときでも「接種しない」との回答が33%に上った。