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片田珠美「精神科女医のたわごと」

なぜ医師は知人女性に同意得ず堕胎術を施したのか?女性の心身を深く傷つける堕胎

文=片田珠美/精神科医
なぜ医師は知人女性に同意得ず堕胎術を施したのか?女性の心身を深く傷つける堕胎の画像1
「岡山済生会総合病院 HP」より

 妊娠中の20代の知人女性に無断で胎児を堕胎させたとして、岡山済生会総合病院の外科医、藤田俊彦容疑者が不同意堕胎致傷容疑で逮捕された。この女性から妊娠したと相談を受けた藤田容疑者は、「診察してあげる」と勤務先の病院に呼び出し、麻酔薬を飲ませて、もうろう状態にさせたうえで、女性の同意を得ずに堕胎術を施したという。

 その後の調べで、藤田容疑者は胎児の父親である可能性が高いことがわかっており、岡山県警は、藤田容疑者が女性の妊娠を都合が悪いと考え、医師の立場や技術を利用して犯行に及んだとみているようだ。

 事件があったとされる5月17日は日曜日で、藤田容疑者は休みだったし、彼が手術室を使用した形跡も残っていないという。また、堕胎術は、子宮を傷つけたり、大出血を引き起こしたりするリスクを伴う。だから、外科医とはいえ、専門外の藤田容疑者が堕胎術を施した背景には、よほど切羽詰まった事情があったと考えられる。

 何らかの事情で、責任を取って結婚することができなかったのではないか。私は最初不倫関係を疑ったのだが、記者会見した同病院の塩出純二院長によれば、藤田容疑者は独身らしい。

 もしかしたら婚約者あるいは本命の恋人がいたのかもしれない。あるいは、この女性と結婚する気にはなれなかったとか、もうしばらく独身生活を謳歌したかったとかいう事情があったのかもしれない。

 そのため中絶を勧めたかったが、この女性は「堕胎するつもりはなかった」と話しており、話し合いが難航しそうだったので、もめ事を避けるために自分自身で堕胎手術を施したのだろう。

 麻酔薬を飲ませて意識をもうろうとさせ、犯行に及んだのは、もうろう状態の間に自分の身に起きたことは覚えていないだろうから、後から胎児の死亡が判明しても、自然流産と思ってくれるはずという計算が働いたからではないか。実に陰険きわまりない。

 藤田容疑者を突き動かしたのは、自己保身のように私の目には見える。邪魔ものは消してしまえばいいという自分勝手な理屈であり、小説やドラマであれば自分の子供を妊娠した女性を殺害するところかもしれない。藤田容疑者は医師なので、その知識と技術を利用して胎児を殺害したのであり、血も涙もない。

 きわめて冷淡かつ冷酷であり、藤田容疑者は「ゲミュートローゼ」である可能性が高い。「ゲミュート」とは、思いやり、同情、良心などを意味するドイツ語である。このような高等感情を持たない人を、ドイツの精神科医、クルト・シュナイダーは「ゲミュートローゼ」と名づけたわけで、「情性欠如者」と訳される。

女性の心身を傷つける堕胎

 精神科医としての長年の臨床経験から申し上げると、妊娠が判明したが、産む、産まないでもめて情緒不安定になり眠れなくなったとか、相手の男性から中絶を強要されてうつ状態になったとかいう女性から相談を受けることは決してまれではない。

 ときには不倫相手の妻を巻き込んで大騒動になり、事件につながることもある。たとえば、昨年5月、JR熱海駅の構内で、交際していた男性の頬をカッターナイフで切りつけたとして、“熟女グラビアアイドル”の岩本和子さんが傷害容疑で逮捕された。岩本さんは、被害者の男性と不倫関係にあり、この男性との間にできた子供を堕胎した翌日に犯行に及んでいる。

 しかも、この男性は妊娠を告げられても「認知しない」の一点張りで、男性の妻からも「堕ろしてくださいね」と言われたという。そのため、すでに妊娠5カ月をすぎていたにもかかわらず、堕胎術を受けたらしい。

 女性の心身を傷つける堕胎術を受けたことが、岩本さんの犯行につながった可能性も考えられる。そのためだろうか、不起訴処分が下され、岩本さんは病院の閉鎖病棟に約3カ月間入院し、昨年11月に退院している。

 どうしようもない事情で堕胎するしかなく、同意書にサインした女性でも、術後に「お腹の中の子供を殺してしまった」と後悔し、喪失感と罪悪感にさいなまれることはある。まして、今回、藤田容疑者が無断で堕胎術を施した被害者の女性は、自分が承諾してもいないのに、胎児を失ったわけで、傷は一層深いだろうし、「許せない」という思いも強いだろう。この女性への十分な心身のケア、そして藤田容疑者への厳罰を切に望む。

(文=片田珠美/精神科医)

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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