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中国は7月30日、対立が深刻化している米国産のトウモロコシを9月から約190万トン輸入する契約を締結した。過去最大規模の購入契約だが、国内の不足量をカバーするにはほど遠い。中国での食糧の用途は、食品用と飼料などに分けられるが、家畜や家禽用の飼料不足が今後発生する可能性が高いとされている。
中国の食卓になくてはならない豚肉の価格は、アフリカ豚コレラの発生による大量処分などにより1年以上にわたり急騰しているが、その傾向はさらに深刻になるだろう。
中国における食糧危機は、日本にとってけっして「対岸の火事」ではない。筆者が心配しているのは、中国におけるコメ不足である。中国政府は8月3日、360万トンの備蓄米を市場に放出したが、その要因は中国のコメの主要産地である湖南省などが6月から7月にかけての豪雨で深刻な打撃を蒙ったからである(8月10日付ZeroHedge)。
中国ではコメの3毛作が一般的である。
(1)3月末に田植えし、6月下旬に収穫
(2)5月初めに田植えし、9月末に収穫
(3)6月下旬に田植えし、10月中旬に収穫
と3回の生産サイクルすべてに豪雨による悪影響が及び、湖南省の農家から「自らが食べる分も確保できない」との嘆きが聞こえるほどである。中国政府は、四川省や湖北省などで農家に補助金を支払って果樹からコメへの作物転換を促し、中国メディアは「各地のコメ生産が増加した」と報じているが、真偽のほどは定かではない。
中国は今後、世界からコメを大量に輸入する動きに出る可能性があるが、大豆・小麦・トウモロコシといった主要穀物と比べ、コメの国際市場は小規模である。コメの輸出国であるインド、タイ、ベトナムなどは、コロナ禍で自国の食糧を確保するため、コメの輸出規制を講じている。
筆者は農業経済の専門家ではないが、コメの調達に必死になっている中国人バイヤーが目を付けるのは日本ではないかと懸念している。日本はコメの主要輸出国ではないが、中国人富裕層が好むおいしい「お米」が市中で売られている。今後新型コロナウイルスの渡航制限が緩和されれば、中国人バイヤーが大挙日本に押し寄せ、市中からおいしい「お米」が消えてしまうような事態が生じるのではないだろうか。筆者の懸念が杞憂で終わることを祈るばかりである。
(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)