実際に露光装置の歴史をみると、光の波長を短くする方向で、装置が開発されてきた(図2)。水銀ランプのg線(436nm)、i線(365nm)、次は、エキシマレーザーKrF(248nm)、ArF(193nm)と短波長化された光源が開発された。
また、ArF(193nm)では、レンズとウエハの間に水を入れる“液浸”と呼ばれる露光装置が開発された。“液浸”にすると、レンズの開口数が大きくなるため、より微細なパタンが形成できるからだ。
そして、2000年頃から、X線に近い波長13.5nmの極端紫外光(Extreme ultraviolet)を使ったEUV露光装置の開発が始まった。その装置開発は困難を極め、何度も絶望視されたが、とうとう2017~18年頃にオランダのASMLが量産機の出荷に漕ぎつけ、19年にTSMCとサムスン電子が最先端半導体の生産に適用し始めたのである。
振り返ってみれば、EUV露光装置の開発には、20年弱の歳月を要した。その間に、露光装置業界の勢力図は大きく様変わりした(図3)。1995年にシェア1位だったニコンと2位のキヤノンに代わって、ASMLが台頭してきた。2019年の企業別シェアでは、世界で唯一EUV露光装置を供給しているASMLが88.5%を独占し、ニコンは7.2%、キヤノンは4.4%にとどまっている。
そして、インテルが脱落し、TSMCとサムスン電子の2社に絞られた微細化競争の勝敗の行方は、1台160億円以上するASMLのEUV露光装置をどれだけ多く導入できるか、その分捕り合戦にかかってきたのである。
EUVの出荷台数と受注残
ここで、四半期毎にASMLが出荷したEUV台数、および受注残の推移を見てみよう(図4)。ASMLは、2016年第1四半期から2019年第4四半期にかけて、合計59台のEUVを出荷した。年間では、2016年に5台、2017年に10台、2018年に18台、2019年に26台と徐々に増えている。この中で、2016年の5台は試験機(3350シリーズ)で、2017年以降が量産機(3400シリーズ)である。
ASMLもEUVの製造キャパシティを増やしてはいるが、その能力が受注にまったく追いついていない。その結果、受注残は増えていく一方であり、2019年第4四半期には49台に達してしまった。
そして、この49台の受注残のうちの大部分が、TSMCとサムスン電子であると推測している。では、TSMCとサムスン電子は、今後どのような計画でEUVを導入していくつもりなのか。
TSMCとサムスン電子のデッドヒート
信頼できる筋からの情報によれば、今年2020年に5nmの量産を開始したTSMCは、2020~22年の3年間に、合計約60台のEUVを導入する計画であるという。また、来年2021年から生産を開始する3nmや現在開発中の2nm用に、2023~25年の3年間に約100台のEUVを導入する見込みであるという。すると、TSMCは現在稼働していると思われる約20台との合計で、2025年には約180台ものEUVが導入されていることになる。