
米国で動画投稿アプリ「TikTok」とメッセンジャーアプリ「WeChat」を禁止する動きが出ているが、そんななかTikTokが、アンドロイド端末から端末識別番号を収集し、利用者の位置情報から個人情報まで掌握していたとも報道されている。
この利用禁止の背景には、米国内で発生した暴動との関連が指摘されている。
今年5月、米警察が黒人男性のジョージ・フロイド氏を取り押さえた際に誤って死亡させてしまう事故があり、それを機に「ブラック・ライブズ・マター運動」が全米に拡大した。ところが、それに便乗して、人種差別運動とは関係ないアンティファ(半ファシスト運動)や極左団体などが加わり、暴力や略奪を伴うものへと変化を見せた。
ロサンゼルス、フィラデルフィア、デンバー、シアトル、ポートランド、ルイビルなどは州知事と市長が双方「民主党」で、暴動を「平和的デモ活動」と呼び、市長権限の警察出動も、州知事に権限がある州兵出動も拒んでいた。その結果、これらの町は破壊・略奪され、6月1日時点でデモ関連の死者が30名以上出る事態となった。
州知事及び市長が治安維持を拒否するため、ドナルド・トランプ大統領は、武装させた連邦職員を派遣して治安維持に努めようとした。ところがデモ隊や暴徒が、治安維持に当たる連邦職員の名前、住所、家族の名前などを取得して職員を脅迫する行為が発生し、家族の身柄を案じて出動を拒む職員も出始める事態になった。
この暴動に一部絡んでいたのがヒューストンの中国領事館で、知財窃取の指示やスパイ活動だけでなく、暴動の指示を出していたとして閉鎖された。つまり、デモに便乗して暴動を起こさせたのが中国領事館で、連邦職員の個人情報を収集していたのがTikTokだったというわけである。
なぜWeChatも禁止するのか
TikTokの禁止と同時にWeChatも対象であることが発表されたが、WeChatが禁止対象になった背景は明らかにされていない。
WeChat自体は位置情報を追跡し、リアルタイムにユーザーを監視する機能が付いているが、TikTokと違ってWeChatユーザーのほとんどは中国人である。WeChatの運用会社であるテンセントに、米政府の禁止による影響を問い合わせてみると、「WeChatは、主に海外の中国人や、中国人と商取引をしている人が使用するものであり、当社に起こり得る影響を評価している最中です。現在、当社への影響は軽微で、社員は通常通りの営業を行っています」との回答を得た。確かに、WeChatユーザーの99%が中国人で、売上の95%が中国国内であるため、今回の禁止はほとんど影響がないというのは当然だ。
米国政府が警戒する理由は、今回のデモで一部の暴徒がWeChatでやり取りし、フードデリバリーや物資調達にWeChatペイという決済システムを利用していたことがわかっている。
それに加えて、WeChatが米国政府にとっての脅威である点は、米国国家安全保障局(NSA)はほとんどのメッセンジャーアプリの暗号を解読するバックドアを利用できる一方で、WeChatの暗号は中国政府が管理しており、米国政府がバックドアを利用できず解読に手間がかかり、事前に暴動を掌握できないというところにある。
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