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杉江弘「機長の目」

航空機、AIによる操縦の検討加速…飛行中はマニュアルにない故障頻発、機長の勘が重要

文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長
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 すべてのエンジンが不作動になったときの滑空距離などのデータはマニュアルの中にないために、当該機のサレンバーガー機長は、推力を失い落下していくコックピットの窓から見える近くの空港や景色の変化を五感によってとらえ、ハドソン川への着水しかないと判断したものであった。

 上昇中高度約1000メートルでバードストライクに遭遇してから着水までわずか3分半、一刻の猶予もなかったこの事故を検証すると、管制官がアドバイスした出発地のラガーディア空港に戻ろうとした場合、最終的に空港までたどり着けず、手前のニューヨークの市街地に墜落したと推定された。

 では、この事故をAIならどう処理しただろうか。

 AIはあらかじめ計算できるデータが入力されているという前提で答えを出してくれる。しかし、このトラブルは2基あるエンジンすべてがバードストライクによって推力を失い、グライダーのように滑空していくものである。滑空距離は、トラブル発生時の高度やフラップ等の機の諸元や吸い込まれた鳥の大きさや数によるエンジンのダメージによっても異なり、それらをデータ化するのは不可能といえる。

 そもそも航空機のメーカーは、すべてのエンジンが同時に停止するという事態は想定せず(実際には鳥や火山灰を吸い込むという事故が発生している)、マニュアルにも滑空性能表などは含まれていない。メーカーはひとつのエンジンが不作動でも残されたエンジンで飛行できるとするのが限界で、それを超えるトラブルまでは保証しきれないという立場なのである。

 したがって「ハドソン川の奇跡」のようなトラブルに対しては、あらかじめデータ化したものを入力してAIに読み取らせることができないのである。

ナビの画面が凍りつく

 次の例は私自身が経験した緊急事態である。

 2009年6月19日、ハイテク機のエンブラエル170を操縦して福岡から静岡空港に向けて進入中に、ナビの情報がすべて得られないという状況に陥ったのである。ハイテク機のグラスコックピットには、機長席と副操縦士席の前にそれぞれMFDと呼ばれる液晶パネルがあり、通常ナビの画面として使用されて刻々と変わる航空機の位置情報と目的地までの航路や方位などの情報が表示されている。トラブルは空港まであと15分、伊豆半島の西側海上を降下中に発生した。突然両方のナビの画面が凍りつき、自機の位置を知ることもできなくなったのである。

 一般の方もPCで画面が凍りつきマウスを使っても画面が動かなくなった経験があるだろう。それと同じで、ナビ画面を操作するとCDUというユニットを操作しても反応がないのである。いろいろな方法で復活させようとしても状況は変わらず、そうしている間にも機は時速450キロの速度で移動していく。

 私は副操縦士にナビの復活を任せ、管制官にレーダーで機の位置を把握してもらい、自らは頭で描いた待機経路を高度2000メートルでぐるぐると旋回することにした。海上で外の景色も見えない状況であったので、もしそのままナビが使えないのであれば静岡空港への着陸をあきらめ管制官に名古屋空港近くまで誘導してもらい目視で着陸しようと考えていた。そうして3回ほど自分で描いた待機経路を旋回するうちに、副操縦士が福岡空港からのデータをすべて打ち込むことによって画面が再度動き出し、無事に着陸を果たすことができた。

 しかし、そのようなナビの復活方法はマニュアルのどこにも記載されておらず、当該副操縦士の勘に頼った結果であった。このようにナビ画面がすべて使えなくなるというトラブルはJALグループでも初めての出来事で、のちにメーカーが検証してもついに原因はわからないままとなった。

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