ビジネスジャーナル > 社会ニュース > アマプラ解約運動、三浦氏への羨望
NEW
片田珠美「精神科女医のたわごと」

アマプラ解約運動の裏に、三浦瑠麗氏への“羨望と反感”…鬱憤晴らしの格好の標的に

文=片田珠美/精神科医
アマプラ解約運動の裏に、三浦瑠麗氏への羨望と反感…鬱憤晴らしの格好の標的にの画像1
三浦瑠麗氏のTwitterアカウントより

「#Amazonプライム解約運動」なるハッシュタグがネット上に出回り、物議を醸している。Amazonプライムビデオの新しいCMに国際政治学者の三浦瑠麗氏が起用されたことに抗議して、Amazonプライムの解約や不買運動を呼びかける運動のようだ。三浦氏が徴兵制導入を公言していることに対する抗議らしいが、このような手法に私は強い違和感を覚える。

 最初に断っておくが、私は徴兵制導入に反対である。そもそも、近代において導入された徴兵制は国民国家の成立と軌を一にしており、二度の世界大戦で多くの犠牲者を出した。その後、ほとんどの欧米先進国で徴兵制は廃止されている。

 フランスでは、2017年に徴兵制の復活を公約にしたエマニュエル・マクロン大統領が当選したが、具現化しつつある政策は16歳になった男女全員に1カ月間の奉仕活動を義務づけるというもの。1997年に廃止された徴兵制とはまったく別物といえるほど、拍子抜けする内容だ。

 第一、  インターネットの普及とグローバル化によって国民国家の意義も役割も縮小しつつある21世紀に徴兵制導入を主張するなんて、時代遅れだと思う。だから、徴兵制導入を公言する三浦氏とは正反対の立場である。

 また、三浦氏を好きか、嫌いかと聞かれれば、私は迷わず嫌いと答えるだろう。「私は賢い。あなたたちは馬鹿」と周囲を見下しているような印象を抱かずにはいられず、反感を覚えるからだ。

 だが、私が三浦さんに反感を覚えるのはなぜかと考え、私の心の奥底をのぞきこむと、羨望、つまり他人の幸福が我慢できない怒りが見えてくる。三浦氏は東大卒の才媛で美人のうえ、素敵な旦那様と可愛い娘さんにも恵まれている。しかも、マスコミにしばしば登場して脚光を浴び、松本人志さんをはじめとする大物にも気に入られている。いわば、一般大衆がほしいと願ってもなかなか手に入れられないものをすべて持っている女性である。こういう女性が羨望の対象になるのは当然だろう。

 だが、羨望のような陰湿な感情が自身の心の奥底にあることを誰だって認めたくない。第一、三浦氏をうらやましいと思う気持ちを認めることは、自分のほうが劣っていると白状するようなものだから、決して認めようとしない。

 自分自身の羨望を認めなくてすむように何をするかというと、あら探しである。三浦氏が才色兼備の成功者であることは厳然たる事実なので、それ以外の“あら”を探し、叩く口実にする。そのための格好の材料が、徴兵制導入の主張だったのではないか。

鬱憤晴らし

「#Amazonプライム解約運動」は、鬱憤晴らしにもなったはずだ。緊急事態宣言が解除されて2カ月以上経ったとはいえ、新型コロナウイルスの感染者も重症者も増えている現状では、自粛から解放というわけにはいかない。また、猛暑のなかでもマスクを着けなければならず、暑苦しくてたまらない。

 当然ストレスがたまるが、それに経済面での不安が拍車をかける。今年4~6月期の実質国内総生産(GDP)が年率換算で27%超も減り、戦後最悪のマイナス成長を記録したと最近報じられたが、深刻な経済状態であることは誰でも多かれ少なかれ感じているはずだ。

 なかには、すでに解雇された人もいれば、解雇されてはいないが、会社の都合で仕事を休んでいる人もいるだろう。あるいは、店舗の売り上げが減ったり、会社の業績が悪化したりして、失業の不安にさいなまれている人もいるだろう。

 いずれにせよ腹立たしい限りだが、怒りの原因になったそもそもの対象に怒りを直接ぶつけるわけにはいかない。ウイルスにも、猛暑にも、勤務先にも、政府にも、地方自治体にも怒りをぶつけられない。

 それでも、怒りは腹のなかにたまっていき、爆発寸前になっている。そのため、絶えず怒りの矛先を探さずにはいられない。そして、怒りの矛先を向けやすい対象を見つけると、コテンパンに叩く。

 このように、怒りの原因を作った本来の対象に直接怒りをぶつけられないため、怒りの矛先を方向転換して別の対象に向けることを、精神分析では怒りの「置き換え」と呼ぶ。これは、鬱憤晴らしの格好の手段である。炎上が相次いでいるのは、怒りの「置き換え」が至るところで起こっているからだと考えられる。

 三浦氏の公言する徴兵制導入に反対なら、その旨を伝えればいいだけの話である。三浦氏はツイッターで発信しているので、そのアカウントに向けて「徴兵制反対」という意見を表明するのは簡単だろう。にもかかわらず、スポンサーであるAmazonに不利益になるような解約や不買運動を呼びかけるのは、怒りの「置き換え」による鬱憤晴らしだからだと思う。

 今回、「#Amazonプライム解約運動」を呼びかけた人たちは、自身の胸中に潜む羨望や怒りに気づいていないのではないか。いや、むしろ目をそむけているように見える。そうすることによって自己正当化できるからだろう。だが、自己正当化は、自分に嘘をついているという点で、明らかな嘘よりも危険なのだということを忘れてはならない。

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

アマプラ解約運動の裏に、三浦瑠麗氏への“羨望と反感”…鬱憤晴らしの格好の標的にのページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!