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佐藤信之「交通、再考」

東京メトロ、幻の有楽町線北上線…都内で許可申請済みなのに実現していない唯一の路線

文=佐藤信之/交通評論家、亜細亜大学講師
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 そうすると半蔵門線の都心区間が宙に浮く。これに目を付けたのが東武鉄道である。北千住で常磐新線と伊勢崎線の線路をつないで直通し、半蔵門線を押上まで完成させて、北千住・押上経由の都心区間の整備を提案した。また、もともと押上では有楽町線北上線と伊勢崎線の直通運転を検討していたが、その北上線の建設が決まらないために、その代案として半蔵門線との直通に切り替えたのである。この時点で、半蔵門線は水天宮までを開業(平成2年)していた。しかし、JR東日本の経営が消えて秋葉原まで第三セクターが一体的に建設・運営することになったため、この東武直通案も途絶える。

東武と半蔵門線の直通

 ところが、平成5年に突然半蔵門線の水天宮~押上間の建設と東武鉄道との直通が発表された。平成3年バブル崩壊により、度重なる景気刺激策として経済対策が組まれた。その一つとして、半蔵門線と東武の直通が取り上げられたのである。景気対策では、補正予算が決まったところで速やかに執行できなければ意味がない。鉄道プロジェクトは、用地買収をともなうと、通常着工まで10年近くの時間がかかる。しかし、半蔵門線と東武伊勢崎線の直通については、常磐新線との直通で調査はほぼ終わっている。そこで急遽、事業化が決定したのである。

 営団は、平成5年5月18日に半蔵門線の水天宮~押上間の鉄道事業免許を申請。6月23日には免許が交付された。通常は、1カ月では審査は不可能である。東武鉄道との間での直通運転の覚書の交換は、その前5月13日に済んでいた。

 結局、有楽町線北上線は、棚上げされたままであった。東武との直通も半蔵門線で実現し、とりあえずの目的は達成された。

ネットワークのミッシングリンク

 その後の東京港・臨海部の開発は目覚ましく、総武方面からのアクセスにはこの北上線の整備が必須である。しかし、特殊法人改革の一環で帝都高速度交通営団が株式会社化(平成16年)され、国は早期の株式の上場を目指した。完全民営化すると、国と都から出ている地下鉄建設に対する建設費の6割に達する補助金が受けられなくなる。本来ならば、株式会社化しても国と都が株主なので、公営地下鉄と同様に補助対象とすべきなのであるが、地下鉄への補助金が東京に集中的に投入されることに対する地方からの批判もあった。そして、当初は、営団は半蔵門線の押上延伸を最後の新設工事とする方針を決めていた。

 ただ、上で説明したようにこの工事の決定が急であったため、平成5年度補正予算では、補助金ではなく無利子貸し付けで予算化された。しかし、後年度からは補助金の対象となり、結局無利子貸し付けは行われなかった。

 平成15年に半蔵門線水天宮~押上間は開業し、営団最後の新線開業となった。東京メトロになった後も副都心線の工事が実施されたが、これには補助金は交付されず、かわりに東京都の都市整備局がトンネルを建設し、東京メトロがこれを無償で使用することで補助金と同程度の公共側の負担を実行した。

 有楽町線北上線は、地元の江東区が熱心に整備を働きかけており、東京都も同じ認識のようである。平成28年の東京圏の鉄道整備マスタープランである交通政策審議会答申でも登載され、続いて平成30年の国土交通省鉄道局の「東京圏における国際競争力強化に資する鉄道ネットワークに関する検討会」でも対象に含められた。検討の結果、整備効果が認められ、あとに残った課題は、どこが事業を担当するかである。都は東京メトロによる整備・運行が合理的としている。

 今年の1月から国土交通省、東京都、東京地下鉄は「東京8号線延伸の技術的検討に関する勉強会」を行っているが、審議の内容は公開されておらず詳細は不明である。また、江東区は、北上線整備の実現を目指して、地下鉄8号線(有楽町線)建設基金の積み立てを行っている。平成22年から始めて現在の積立額は80億円である。

 ネットワークのミッシングリンクの解消は、その効果は事前に想定されたものを超えて広範囲にわたることが予想される。実際、東京スカイツリーのある押上地区や下町を中核として発展が続く錦糸町から臨海部に行くには、新橋で「ゆりかもめ」乗り換えか東京駅から銀座四丁目の間を歩いて有楽町線を利用する以外は、路線バスしかない。この区間の開業により、東京東部の人の流れが劇的に変わることは明らかである。

(文=佐藤信之/交通評論家、亜細亜大学講師)

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