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小林敦志「自動車大激変!」

新型ハリアーが大ヒット、RAV4 PHVは受注増で販売中止…ニーズが高まる“隠れ高級車”とは?

文=小林敦志/フリー編集記者
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トヨタの「ハリアー」(「トヨタ ハリアー | トヨタ自動車WEBサイト」より)

 トヨタ自動車の新型「ハリアー」が大ヒットしているのは、すでにご承知のことと思うが、とりあえずその状況を確認すると、自販連(日本自動車販売協会連合会)統計による2020年7月単月の除軽(登録車のみ)カウントでの新車販売ランキングでは9388台を販売し、4位に入っている。

 月販目標台数3100台に対し、3倍以上の結果となった。ただし、ハリアーは現時点では納車待ちが半年以上となっており、オプションの組み合わせ次第ではさらに納車を待つ状況となっているので、現時点ではフル生産してバックオーダーを消化している状況といっていいだろう。

 もうひとつのトピックが、6月8日に発売となったトヨタ「RAV4 PHV」。こちらは発売直後に“バッテリーの生産能力を大幅に上回る受注があった”とし、さらに年度内生産分の販売を終了したとして、販売中止となっている。

 RAV4 PHVがこのような事態となったことについて、新車販売業界に詳しいA氏は「トヨタは需要予測を見誤ったようです。上層部としては、もっと量販できる体制を整えなくていいのかと現場に伝えたようですが、開発現場では『そんなに売れるはずがない』と判断したようです」と話してくれた。

 ハリアーについては、月販目標台数の設定自体が良く言えば“控え目”にも見え、これがさらに“ヒットしている”というイメージを増長しているように見えるが、とにかくよく売れ、それなりの生産体制を組んでバックオーダーの消化をしているのは事実である。

 両車の人気の背景についてはさまざまなメディアで分析が進んでいるが、個々の事情のほかに、“WITHコロナ”という社会背景も大きく影響を与えているものと考えられる。

意外な需要がある“隠れ高級車”とは?

 筆者が命名したのだが、世の中には“隠れ高級車(高額車)”というものがある。わかりやすくいえば、見た目や世間の印象よりも高額なモデルである。過去にはトヨタ「エスティマ ハイブリッド」が、その代表格であった。

 最終モデル(3代目)が2016年に最後のマイナーチェンジを行ったときには、ガソリン車の最上級グレードの車両本体価格が約370万円なのに対し、ハイブリッドの最上級グレードは約500万円なので、その差は約130万円となっていた。

「あるセールスマンから聞いた話では、お得意様といえる、夫婦ともに公務員で子どものいないお客がいたそうです。そして、このお客は『お金が余って仕方がない』と短期間(早いときには半年)でエスティマ ハイブリッドを乗り継いだそうです。ガソリン車でもけっこうな価格はしますが、ハイブリッドでつけられるオプションはすべて装着して、総額700万円ほどで乗り継いでいたそうです。メルセデスベンツなど輸入車に乗ると近所でも話題となってしまいますが、世間ではミニバンはそれほど高いイメージがないので、カモフラージュになるし、本人たちにとっては満足感も高いとして選んでいたそうです」(前出のA氏)

「レクサス」が日本で開業した頃、都市部より地方部で反応が良かったという話を聞いたことがある。それこそ、メルセデスベンツに乗れば目立つし、近所で何を言われるかもわからないが、レクサスならば「トヨタのクルマ」と説明すれば、それほど抵抗なく受け入れてもらえたとのことであった。

 その地方部も、今では各輸入ブランドの積極的な出店や格差社会の拡大などもあり、それほど抵抗なく輸入車に乗ることができるようになっているようだ。

 RAV4 PHVは、まさに“隠れ高級車(高額車)”としては“ストライク”級といっていいほど、ドンピシャのモデルであった。ハイブリッドの最上級グレードより約137万円高いだけでなく、日本車ではまだ数少ないPHEVの最新版となるので、技術的に興味を示す人も多い。

 そして、RAV4はまだまだ手軽なモデルだった初代のイメージを引きずる人も多いので、“隠れ高級車”を欲しがっている人が殺到することは、新型コロナウイルス感染拡大がなくとも容易に想像ができた。

 しかも、“WITHコロナ”の時代となり、富裕層のライフスタイルは大きく変わった。高級レストランなどでの外食はほとんどできなくなり、せいぜい高級デリバリーサービスを利用するぐらい。さらに、海外渡航は観光レベルでは事実上不可能となっている“鎖国状態”が続く中では、お金の使い道がかなり限られているのである。その中で、セールスマンから「おもしろいクルマがある」とアプローチされれば、飛びつくのは当たり前の反応である。

 ハリアーにしても、ベーシックタイプでは300万円を切る299万円となっているが、最上級のハイブリッドZ 4WD レザーパッケージでは504万円となる。販売現場からの声も強かったようで、新型ではハイブリッドでも2WDが設定されたが、4WDの方がパフォーマンスとして圧倒的に良いとの話も聞いている。しかも、レザーパッケージを選ぶと納期がさらに延びているとの情報も入っており、“隠れ高級車”として選ばれている傾向が目立っているように見える。

マツダのSUVとトヨタ車の決定的な違い

 とはいえ、ハリアーやRAV4 PHVに乗り替えたいという人がそんなに多いのか……と疑問に思う人もいるかもしれないが、トヨタはその圧倒的に強い国内販売力を背景に膨大な既納客を抱えており、その構成は実にバラエティに富んでいる。その中には、当然“隠れ富裕層”(公務員などで見かけはつつましく生活していても、お金をいっぱい持っている層)も多く含まれる。

 過去に3代目「プリウス」が大ヒットしたが、そのときにも、たとえば校長先生が最上級グレードにつけられるオプションをすべてつけて購入したり、身分の安定した若い公務員が「86」をポンと購入した、などという話をよく現場で聞いた。「クラウン」を代々乗り継いでいるお客に「新型が出ますよ」と話したら、「最上級グレードにオプション全部乗せで持ってこい」と即答されることなども、過去には当たり前のようにあった。

「とにかく『オプション操作のスイッチ用のダミースペースをすべて埋めるように』とオーダーするお客は多かったようです」(同)

“隠れ高級車”といえば、マツダのSUVも候補として思い浮かぶが、こちらはトヨタのような動きはあまり見られないようで、販売状況は今ひとつといったところ。この点について、A氏は以下のように語る。

「確かに値引きをあまりせずに、デザインや技術力では定評がありますが、クルマ自体の知名度が希薄なのが致命的なようです。“ハリアー”、“RAV4”といえば、RAV4は一時国内販売を“お休み”していたとはいえ、両車ともすでに長い間販売を続けており(しかも人気モデルとして)、それほどクルマに興味がなくても車名ぐらいは知っている人は多いでしょう。“継続は力なり”ではないですが、同じ車名で長い間販売を続けていることは大きいようです」

 リセールバリューが“鉄板”なことも見逃せない。ハリアー、RAV4ともに海外バイヤーが注目しており、日本から中古車として出荷されると、ロシアや東アジア、アフリカなどの海外で人気が高いことが大きく影響している。リセールバリューが高いので、残価設定ローンを組む際に3年後や5年後などの残価率が高いだけでなく、たとえば5年払いならば55回目ぐらいなど、支払い途中で下取り査定に出すと、査定額で残債を相殺できるだけでなく“お釣り”がくることも多い。

 富裕層の中には、まとまった現金は手元に置きたいので、あえてローンを利用するといった人も目立つ。今のような先の見えない不安定な状況下では、「まとまった現金は手元に置いておきたい」という傾向がより強まり、そのような動きは顕著となっている。

 数千万円級の高級輸入車を購入する人は、お気に入りのモデルということもあるが、リセールバリューなども考慮して資産価値(値落ちの少ないモデル)もしっかり評価して選んでいると聞いたことがある。日本車についても、残価設定ローンの普及もあり、同じような視点でクルマを選ぶ人が目立っている。

高まる“隠れ高級車”のニーズ

 新型コロナの感染拡大は誰もが予測できなかった事態なので、ハリアーやRAV4 PHVは今の社会状況を見据え、タイミングを見計らって市場投入したとは考えにくいが、少なくとも今のような“非常時”に市場投入して、どのような反応があるかはシミュレーションしたはず。ハリアーでは4月に発表し、6月に正式発売したのは、その動きともとれる。

 日本車メーカーは、レベルの違いはあっても、富裕層と呼ばれる購買層の消費スタイルや価値観の把握が苦手に見える。レクサスは北米で大成功しているが、それでも現地では「購買層の消費スタイルや価値観を理解しきれていない」との話をよく聞く。残念なことかもしれないが、日本でも貧富の差は今後も拡大の一途をたどることになるだろう。

“隠れ高級車”がよく売れる一方で、輸入車販売もJAIA(日本自動車輸入組合)の統計を見ると、7月単月は前年比マイナスながら、6月と比べると回復傾向が顕著となっており、都市部を中心に活発に売れているようである。新型コロナ感染拡大で、さまざまな場面において、改めて日本における“同調圧力”の強さというものを感じたが、“隠れ高級車”の売れ行きが好調なのも、その傾向を強く反映したものといっていいだろう。

 新型コロナウイルス感染拡大が収束を見せず、そして事業年度締めで下半期となる10月以降は企業業績の悪化が顕著となり、雇用問題が深刻化するとも言われている。その中でも、給与、身分ともに安定している公務員、元公務員や元大手企業幹部や役員を経てリタイアし、年金生活を送っている“富裕高齢者”を中心に、“隠れ高級車”のニーズは高まり続けそうである。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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