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小笠原泰「日本は大丈夫か?」

「やってる感」至上主義の安倍政権を支える地方の有権者たち…反エリート主義と真逆の日本

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

反エリート主義

 さて、筆者はここで、もう一つ裏の理由を考えてみたいと思う。反エリートという視点である。僅差でトランプ氏が大統領選でヒラリー・クリントン氏を破ったのは、トランプ氏の掲げたワシントンD.C.(キャピトル・ヒル)に象徴される政治的エリート攻撃に起因する部分もある。ヒラリー氏は、エリートの象徴である名門イェール大学のロースクール(法科大学院)を卒業し、夫のクリントン大統領のファースト・レディから上院議員(元ファースト・レディの上院議員は初めて)となり、オバマ政権では国務長官を務めており、ほぼキャピトル・ヒルの住人である。

 民主党にこの記憶がなかったわけではないであろう。予備選で敗れたサンダース氏を支持する若者も反政治エリートであることも意識していたかもしれない。実際、今回の民主党候補の2人は、エリートの象徴であるアイビーリーグ出身ではない。大学と大学院を含めると両候補がアイビーリーグ出身でないのは、1984年のモンデール氏とフェラーロ氏(女性)以来である。

 ここで、ハリス氏とライス氏の学歴を見てみよう。ライス氏は、スタンフォード大学を卒表し、ローズ奨学金でオックスフォード大学院に留学し、博士号を取得している。アイビーリーグではないが高学歴である。経営コンサルタント会社のマッキンゼーに勤めていた経験もあり、かなりのエリートである。一方のハリス氏は黒人の間では名門であるハワード大学で学んだ後、カリフォルニア大学ヘイスティングズ校ロースクールを卒業しており、学歴的には地味といえる。有権者にはライス氏よりもハリス氏のほうが好感を持たれるかもしれない。

 歴代の大統領候補の学歴をみてみよう。

・ヒラリー・クリントン氏(イェール大学ロースクール)

・バラク・オバマ氏(ハーバード大学ロースクール)

・ジョン・ケリー氏(イェール大学、ボストン大学ロースクール)

・アル・ゴア氏(ハーバード大学)

・ビル・クリントン氏(オックスフォード大学、イェール大学ロースクール)

・マイケル・デュカキス氏(ハーバード大学ロースクール)

 今回の大統領候補であるバイデン氏は、デラウェア大学で学んだ後、シラキュース大学ロースクールを卒業している。ここに、アメリカの政界において超名門校でなくともロースクール卒である意味合いが大きいことが見て取れる。今回の民主党候補の2人は、エリートの象徴であるアイビーリーグ出身ではないが、アメリカにおける反エスタブリッシュメント感情の影響が今回の候補者選びにもあったのかもしれないと筆者は勘繰るわけである。

 一方のトランプ陣営はどうであろうか。副大統領のペンス氏はハノーバー大学で学んだ後、インディアナ大学ロバート・H・マッキニー・ロースクールを卒業しており、アイビーリーグとは無縁である。当のトランプ氏はどうか。アイビーリーグのペンシルベニア大学ウォートン・スクール(学部)の卒業だが、落ちが付くのがトランプ劇場である。トランプ氏に関する一族による暴露本によれば、「トランプ氏が金銭を払って他人に大学進学適性試験SATを受けさせ、その結果を用いてペンシルベニア大学ウォートン・スクールに入学した」との情報が流れている。さもありなんと思わせるところが、エンターテイナー師のトランプ氏である。

政治家の縁故主義化

 翻って日本を見てみよう。現在の内閣は総理大臣を筆頭に史上最低学歴内閣である。そもそも日本にエリートはいるのかという突っ込みは置いておくとして、アメリカのエスタブリッシュメントの観点からいえば、自民党議員の多くが地方選挙区の二世三世議員であることからみて、彼らはある種のエスタブリッシュメントといえるかもしれない。しかし、内実は、戦後の自民党体制下で確立した利権につながる政治家の縁故主義化である。早い話、地方にお金を流す頼れるパイプであり、これを今どきの言葉で地方創生といいたければ、そういうのは構わないが、お金を中央から地方に流すパイプ機能である事実に変わりはない。ほとんど政治屋という家業に等しい。有権者はそれを支持しているので、反エスタブリッシュメントの国民感情は薄く、むしろ歓迎のように見えるのは筆者だけであろうか。

 古くはヴェネチアの歴史が示すように、己の利権を既得権益として固定化・貴族化した時点で、成長のモメンタムを失い、没落が始まる。自民党の政治家自身が既得権益者であるので、彼らがいくら変化や改革を叫んでも、社会が変化していくわけがない。実際、安倍首相は、「アベノミクスっていうのは『やってる感』なんだから、成功とか不成功とかは関係ない」と述べている(『政治が危ない』芹川洋一・御厨貴著、日本経済新聞出版社、2016年)。このような自民党の政治家とそれを支える地方の有権者が多数を占めるなかで、いくらイノベーションを叫んでも掛け声とやってる感でしかないのは致し方なかろう。有権者の責任でもあるが、日本が世界から取り残されることになっても自業自得であろう。

(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)

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