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藤和彦「日本と世界の先を読む」

ついに中国がアメリカに追い込まれた…最重要輸出品レアアース生産が危機、乱開発のツケ

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
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「gettyimages」より

 世論調査機関ピューリサーチセンターが7月30日に公表した調査結果によれば、新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、米国人の中国に対する感情が過去最悪になった。中国について「好ましくない」と回答した人の割合は73%と2018年に比べて26%も増加した。米国における対中感情が悪化したのは、トランプ政権が繰り広げてきた米中貿易戦争などが影響しているが、「新型コロナウイルス感染症が広まったのは中国政府の初期対応に原因がある」と回答した人の割合が78%に上っていることからわかるように、新型コロナウイルスのパンデミックも関係している。

 国内での対中感情の悪化を奇貨として、米国政府は米国で活動する中国企業に対する締め付けを強めている。トランプ大統領は8月14日、安全保障上の懸念を理由に、中国IT企業のバイトダンスに対し、同社が運営する動画投稿アプリ「TikTok」の米国事業を90日以内に売却するよう命じた。

 ポンペオ国務長官は8月5日、米国の通信ネットワークから中国の影響力を排除する「クリーンネットワーク」構想を発表している。米国のアプリなどにアクセスできないようにしている中国の「グレート・ファイアウォール」に対抗するものであり、TikTokなどのスマホアプリばかりか、中国企業のクラウド事業をも制限しようとする考えである。

 トランプ大統領は23日、FOXニュースのインタビューのなかで「中国とのビジネスはしなくてもいい」と述べたように、米中両国は1年半にわたって貿易戦争を繰り広げてきたが、今やデカップリング(切り離し)の事態が発生するまでに冷え込んでいる。

 中国国内では、米国との関係が急激に緊張するなかで、「金融戦争」の行き着く先として米ドルを中心とする国際通貨システムから中国が閉め出される恐れがあるとの不安が高まりつつある(8月13日付ロイター)。こうした懸念から、デジタル人民元を使ってドル決裁を迂回することを真剣に検討し始めている。

 中国人民銀行が発行する中銀デジタル通貨(デジタル人民元)の発行に向けた準備は、すでに進められている。深セン、成都など4都市で試行テストが行われているが、中国商務省は8月14日、北京市や天津市、上海市を含む長江デルタ地域、香港、マカオ市などに試行テストの範囲を拡大することを発表した。

レアアース生産設備が洪水でダメージ

 米国経済をしのぐ勢いとなった中国は、デカップリングに備え着実に準備しているかに見えるが、深刻なアキレス腱も露わになってきている。

 IT分野での競争力が世界一といわれる中国だが、今年も米国から半導体を大量に輸入する見通しである(8月27日付ブルームバーグ)。中国政府は自国の半導体製造技術に多額の資金を投じているが、米国からの輸入額は3年連続で3000億ドル規模となっており、国産化のハードルが高いことが明らかである。

 米国での「中国企業叩き」の対抗措置として、「レアアースの禁輸を用いるのではないか」との観測もある。レアアースは希土類とも呼ばれ、スマートフォンやパソコン、電気自動車などの製造に欠かせない材料である。中国のレアアース生産量の世界シェアは約8割であり、2010年に日中関係が緊迫した際、中国がレアアースの供給を停止した経緯から、「レアアースは中国にとっての戦略物資」とみなされるようになっている。

 中国にとって「虎の子」といえるレアアースだが、6月から続いている長雨の影響で発生した長江流域の洪水で深刻なダメージを受けている。四川省に拠点を置く中国有数のレアアース生産企業「盛和資源」は8月19日、「洪水により2つの工場の設備や在庫製品が被害を受けた」ことを明らかにした。被害を受けた工場の一つは、中国全体のレアアース生産量の2割弱を占めており、今後中国からのレアアース輸出が大幅に減少することが予想されるが、輸入先である米国が「中国政府の対抗措置だ」と勘違いして、両国関係がさらに悪化する可能性がある。

食糧危機

 中国にとっての目下の最大の悩みは食糧の安定確保である。長江流域の洪水や東北地方の干ばつなどで中国の農業生産が大打撃を受けていることを8月12日付コラムで紹介したが、長江流域の洪水は農業生産の基礎資材である肥料の生産にも大きな悪影響をもたらしている。中国のリン酸(肥料や飼料に広く使われている)の4分の1を占める肥料メーカーの四川の工場が被災したが、生産再開時期の目途が立っていないという。

 中国では8月12日、習近平国家主席が食品の浪費をやめるよう呼びかけたことを契機に食料供給をめぐる不安が高まったことから、農業農林省が26日、「食料供給は引き続き安定しており、買い占めの必要はない」と火消しをせざるを得ない事態となった。中国は7月に輸入した米国産トウモロコシが過去最大となったのに続き、8月に輸入する米国産大豆も過去最大となる見込みである(8月26日付ブルームバーグ)。

 中国の共産党政権は「中国の歴史上初めて庶民に腹一杯飯を食わせられることを実現させた」ことを誇っているが、その正統性が揺らぎ始めているのである。その直接の要因は異常気象であるが、長年にわたり乱開発を行ってきたツケが記録的な洪水や干ばつを招いたという側面も強い。

 食糧の大輸出国である米国が、食糧輸出を停止する措置を講じる可能性は低いが、1973年6月、当時のニクソン政権が予告なしに大豆など農産物の禁輸方針を発表したという前科がある。これにより当時の日本では豆腐の値段が急騰した。

 中国は、米国への対抗意識から南シナ海で軍事演習を行っている余裕はないのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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