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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

鳥はクラシック音楽を聴き分けられる?動物に備わる超特殊能力、新型コロナにも発揮か

文=篠崎靖男/指揮者
鳥はクラシック音楽を聴き分けられる?動物に備わる超特殊能力、新型コロナにも発揮かの画像1
「Getty Images」より

 現在、新型コロナウイルス感染を診断する方法としては、PCR検査と抗原検査しかありません。とはいえ、それはどんな病気でも同じで、インフルエンザを確定するのも、抗原検査を受けて、A型かB型かなどと診断をされます。ちょっとだるいくらいであまり自覚症状がない場合には、実際に病気なのか疲れなのかも、自分ではわかりません。

 そんななか、フィンランドでは、まだ試験段階だそうですが、新型コロナウイルス患者が発する特定の匂いをかぎ分ける訓練をした犬が空港内を歩き回ることになったそうです。新型コロナウイルス自体にはなんの匂いもありませんが、感染者の体から発散している揮発性の有機化合物の匂いを犬に覚えさせて、繁華街、空港、駅構内のように人がたくさん集まる場所で感染者を発見できるようにしたいという試みです。

 実は英国でも同様の研究が進められており、これまでにも犬がマラリアの病原体を発見できたことから、新型コロナウイルスにも可能だと研究者は期待しています。近い将来、日本のコンサートホールやショッピングモール、駅構内にも“新型コロナ犬”がうろついているかもしれません。

 そう考えてみれば、21世紀の現在になっても、世界中の国際空港では相変わらず麻薬犬が歩きまわっていますし、戦地に行けば爆弾の場所を嗅ぎつける訓練された犬が活躍しています。人間の最新技術をもってしてもなんともならないことが、動物によってやすやすとこなされているのです。

 動物といえば、こんな面白い話を聞きました。それは、慶應義塾大学名誉教授で動物を相手にした心理学研究を続けている渡辺茂氏が、1995年に「人々を笑わせ、考えさせる」イグ・ノーベル賞を受賞された、ハトの識別能力を示した研究です。ハトを訓練すれば、絵の違いを見分けられるようになるという発表です。

 ハトに、19世紀フランス印象派を代表する画家クロード・モネと、20世紀アヴァンギャルドの先駆者パブロ・ピカソの画風を教えておきます。画風というのは、それぞれの画家の作風や傾向ですが、それを覚えたハトは、新しい絵であっても、モネかピカソの作品かを見事に見分けることができたそうです。

 そこには、ヒトにはないハトが持っている特殊能力が関係しているといいます。たとえば、絵を細かく刻んでバラバラに並べてしまうと、ヒトは誰の絵かわからなくなるのですが、ハトは区別できるのです。ヒトは総じて全体をまとめて見ますが、ハトは小さな特徴を掴んでいるそうで、そんな能力によって、見たことがない絵を見せてもモネかピカソかを判断するそうです。

 そう考えれば、伝書バトも低周波や磁場を感じながら巣に戻ってくる能力があるわけですし、天災の前に鳥がいなくなったという話を聞くこともあるので、鳥にはヒトにはない優れた能力がたくさんあるのだと思います。

鳥は音楽を聴き分けられない?

 しかし、鳥にオーケストラを聴かせて作曲家を判断させることは難しいかもしれません。英国シェフィールド大学教授のティム・バークヘッド氏によれば、ヒトは20ヘルツから20000ヘルツの音まで聴こえるのに対して、大半の鳥は500ヘルツから5000ヘルツまでの音しか聞こえないそうです。オーケストラが演奏前に行うチューニングの音が440ヘルツなので、それすらも鳥は聞こえないことになります。コントラバスによる低音のベースラインがまったく聞こえず、中音のホルンのソロも聴こえません。もし、鳥がチェロ協奏曲を聴いたとしたら、肝心なチェロのソロはほとんど聞こえずに、伴奏のヴァイオリンやフルートばかりが聴こえることとなります。

 そう考えると、ホトトギスやウグイスは懸命に美しく歌いますが、確かに高音です。求婚相手のメスに聴こえなかったら、一生懸命に鳴いている意味がありません。そんな鳥たちの鳴き声を、なんと交響曲に取り入れた作曲家がいます。それは、意外に思われるかもしれませんが、『運命』や『第九』で有名な、肖像画ではしかめ面をしているベートーヴェンです。

 そんな彼の一風変わった交響曲第6番『田園』の第2楽章は、「小川のほとりの情景」という、まるで絵画のような題名がついていますが、なんと3種類の鳥の鳴き声を楽器に真似させる場所があるのです。フルートがナイチンゲール、オーボエがウズラ、クラリネットがカッコウという、やはり音が高い楽器が鳥の鳴き声そっくりの音型を演奏するのですが、ベートーヴェンは念入りにも楽譜に各々の鳥の名前を書き込んでおり、奏者に鳥の声を正確に真似することを要求しています。

 こんな交響曲は前代未聞です。当時の初演をしたオーケストラ奏者たちも驚いたに違いありません。今まで交響曲を演奏していたのに、急に鳥のまねごとをさせられるわけですから。

 しかし、その奇抜なアイデアのおかげで、観客はコンサートホールで交響曲を聴きながら、まるで夏の小川のほとりにいるような気持ちにさせられるのです。そして次の第3楽章は、農民の田舎くさいダンス音楽。農民の一人が酔っ払ってしまい、よろめいているような音型まで現れ、もう交響曲を聴いているような感じではなくなってしまいます。続いての第4楽章は夏の嵐の場面。ピッコロの甲高い音が稲光を、ティンパニが恐ろしい雷鳴を表現し、今でも、この曲は果たして交響曲なのかと思うほどです。

 そんな交響曲第6番『田園』を、残念ながら鳥は聴いて楽しむことはできないのですが、犬や猫の可聴範囲はヒトよりも広いので、ペットを飼っている方は、ぜひ一緒にCDを聴いて楽しんでみてはいかがでしょうか。そういえば今は、ホテルはもちろん、ペットを同行できる水族館があるくらいペットブーム。コンサートも、「ペット可」の場所が出てきてもいいですね。

 ほかにも、動物にクラシック音楽を聴かせると、さまざまな効果があることがわかっています。たとえば、牛にクラシック音楽を聴かせると乳の出が良くなるそうです。ただ、ベートーヴェンではなくて、モーツァルトが一番とのことです。
(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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