ただし、シャイアー買収の負担は大きい。買収発表以降、武田薬品の株価は30%超下落している。株価の下落は、主要投資家がシャイアー買収後の事業運営が想定されたほどではないと考えていることを示唆する。現時点でシャイアー買収がうまくいっているとは言えない。成果の発現には時間がかかりそうだ。

経営陣が示した思い切ったかじ取り

 同社が大衆薬事業を売却する理由の一つは、債務の圧縮だ。それに加えて、大衆薬事業の売却には、企業文化の刷新という狙いもある。武田薬品は、自社の出自であり、成長を支えてきた大衆薬事業の売却を、グローバル企業としての事業体制の強化につなげたい。例えば、シャイアーの事業運営には、日本ではなく、米英の発想に基づいた経営管理が必要だ。大衆薬事業の売却によって、同社に組織全体に世界を相手に戦うマインドセットを求めている。

 先行きは不確実だが、足許の世界経済の環境を踏まえると、新薬開発力を強化して成長を目指すという武田薬品の経営戦略は、理論的には相応の説得力がある。武田薬品が成長を遂げてきた国内の大衆薬事業は高い成長が見込めない。日本では、少子化、高齢化に加え人口が減少している。その環境下、ビタミン剤などの需要拡大は見込めない。財政支出の増大から、日本では薬価が引き下げられている。

 その一方で、国内外でがんや神経疾患などをはじめ新薬への需要は高まっている。また、米国を中心に海外では新価が上昇してきた。それに加えて、新型コロナウイルスの発生によって新しい感染症などに効果のあるワクチンや治療薬開発の重要性もかつてないほど高まっている。それは、製薬企業にとって成長のチャンスだ。世界の医療用医薬品大手、スイスのロシュ、ノバルティスなどは成長期待の高い新薬分野に特化し、競争力を高めるために大型の買収を行っている。

 新薬の開発には時間とコストがかかる。開発したとしても、米食品医薬品局(FDA)など各国当局の承認が得られるかは不確実だ。そうしたリスクに対応するために、武田薬品にとって有望な治療薬と新薬の候補(パイプライン)を持つ企業、あるいはその一部事業を取得する重要性は増す。

 そのためには、企業買収の実務経験を持ち、組織間の融合を進めた経験のある人材や、各国当局との豊富な交渉経験を持つ人材の確保が欠かせない。国が変われば法規制も、言語も違う。大衆薬事業の売却によって、武田薬品は創業来の企業文化を改め、ウェバー社長が進めてきたグローバルな事業運営体制を強化しようとしているように見える。

武田薬品の改革が日本企業に与えるインパクト

 これまで以上に武田薬品では外国人人材の登用が進み、グローバル企業としての性格が鮮明になる可能性がある。組織に深くしみ込んだ人々の行動様式を根本から変えることは、口で言うほど容易ではなく、組織内には相応の動揺や不安が広がる可能性は軽視できない。

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