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たかぎこういち「“イケてる大先輩”が一刀両断」

ユニクロ運営のファストリ、H&M抜き世界2位に(利益ベース)…見えた“世界一”の背中

文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師
ユニクロ運営のファストリ、H&M抜き世界2位に(利益ベース)…見えた“世界一”の背中の画像1
ユニクロ原宿店

 コロナ禍が世界中の都市ロックダウンを招き、予想もしない未曽有の経営環境を生んだ。大幅減収となったアパレル大手3社の直近4半期の決算からその影響を検証する。

 各社ともEC売上は伸びたが、実店舗休業の大幅ダウンをカバーできずに営業損益は赤字となった。下期も経営環境は不透明であり、前期のカバーを期待できる要素は見当たらない。通期業績の落ち込みは避けられそうにない。

 大量生産・大量消費への批判、ネット発の新興アパレルとの競争激化のなかで、想定外のコロナ禍はアパレル業界が従来から抱える課題を一気に表面化させた。実店舗の役割、ECの進化など各社各様のウイズコロナ時代の対策を見てみる。

1.世界最大のアパレル企業インディテックス(ZARA)に見る未来像

 インディテックスは春物商品が立ち上ったばかりの3月中旬に、世界の店舗の約半数相当の3,785店舗(39カ国)が休業。売上の8割を占める欧米市場でのコロナ禍の影響は多大であった。そのために2020年2-4月期の売上高は4,031億円(昨年比44.3%減)、総利益は2,356億円(45.2%減)、営業損益は620億円の赤字となった。

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『アパレルは死んだのか』(たかぎこういち/総合法令出版)

 しかし売上高純利益率は前期約13%と超優良で、増収増益の前年度(19年度)にコロナ禍を見すえて340億円相当の在庫引当金を計上している。コロナ禍前より取り組んできた実店舗とECの在庫一元化の前倒しを進める。19年のEC販売比率14%を22年には25%以上に引き上げる計画である。

 2020年中には本社のあるスペインのアルテイショに東京ドームの1.4倍の広さを誇るオンラインスタジオが整備される予定。同時に無線自動識別(RFID)タグの全ブランドへの導入も進む。コロナ禍で、こうした取り組みのスピードが増した。6月には最大で全店舗の16%に当たる1,200店を21年までに閉鎖すると発表した。

 しかし、この閉鎖は非常に前向きな戦略に基づいている。実店舗のEC拠点化である。すでにスペイン北部の都市ビルバオでは18年5月に旗艦店をオープンさせ、周辺の小型店4店舗を統合した。売上高は4店舗合計を上回り、在庫も2割以上削減したスクラップ&ビルドである。小型店を中心に1,200店をクローズし、大型店450店舗を出展計画であり総売場面積は逆に増やしてゆく。

「クリック&キャリー」と呼ばれる、好きな時間にネットで注文し自分の都合に合わせて店頭で試着して持ち帰る形態を広げる。アマゾンへの対抗を成功させつつある米国ウォルマートのアパレル版が誕生しつつある。

2.売上高世界2位へネス・アンド・マウリッツ(H&M)の苦戦

 H&Mはスウェーデンに本社を置き、大量出店と大量生産を背景とした低価格商品で、2010年度は売上高純利益率が約17%でインディテックスの約14%を上回る収益力を誇っていた。15年度に純利益はピークとなり、近年はトレンド商品中心のMDがネット発の新興アパレルに押され下降気味であり、19年度の純利益はピーク時の約6割程度である。

 20年2月は中国で518店中334店が休業。3月には中国で営業再開するも、欧州で休業。北米も3月から5月は7割の減収となった。20年3-5月期は売上高3,382億円(昨対比50.1%減)総利益は1,568億円(同58.3%減)、営業損益は730億円の赤字となった。

 在庫の値引き販売は今も続く。出店拡大による成長を続けてきたが、今期は閉店数が出店数を上回る見込みである。サスティナビリティ等への配慮がかけているとの批判を受け、2030年までに全商品をリサイクルや環境に優しい素材に切り替える予定だ。回収した衣料を原料にしたコレクションも展開し、イメージの払しょくを図っている。19年11月にはスウェーデンの首都ストックホルムの旗艦店で、ドレスのレンタルビジネスも開始した。大量生産・大量消費から新しいH&M型SPAモデルへの移行を目指し、試行錯誤が続く。

3.H&Mの背中が見えた売上高3位のファーストリテイリング

 売上高2位のH&Mに売上高で迫るファーストリテイリングはどうだろうか。20年度3~5月期、売上高は3,364億円(昨対比39.4%減)とH&Mとの売上と並ぶ。総利益は1,744億円(昨対比39%減)、営業損益は43億円の赤字と、単純にこの四半期だけの比較だとH&Mを上回っている。

 主力事業のユニクロは国内で3月から5月の連休までの店舗休業が増え、売上高は34%減。5月は中国が既存店増収だったが、その他のアジア、欧米が大きく落ち込み海外売上高は45%減収。しかし国内ユニクロが黒字を維持し、海外は中国の速い回復にも助けられ営業損益は43億円の赤字にとどまった。

 春夏在庫の処理についても他社同様にトレンド商品は値引き販売を強いられるが、得意とするベーシック商品は構築を進める適時供給体制により、生産調整によりコントロールする。在宅勤務の定着や景気の不透明感から、衣料品へのニーズが実用品にシフトし、ユニクロには追い風となった。

 コロナ禍によって消費者が新しい生活様式を求めたことで、ユニクロの強さがより強く認識された一面もある。今年、新業態の3店舗を開業しながらも、ファストリの柳井正会長兼社長が「よりソーシャルな小売業」への脱皮意欲を宣言。具体的な新業態はまだ見えないがその挑戦は休むことなく続けられる。

まとめ

 コロナ禍によって、世界のアパレル業界は旅行関連業界に並ぶほどの打撃を受けた。米国の3~6月の小売売上高は前年同期比7%減であったが、アパレルは55%減であった。米国の名だたる名門企業の破綻が続いただけでなく、日本でも東証1部上場の名門レナウンも破綻に追い込まれた。今も残念ながら業界では次の企業破綻の噂が絶えない。

 アパレル業界はそのビジネスモデルだけでなく、存在価値さえ問い直されている。アパレルの価格は戦後、物価安定の超優等生とされてきた。暑さ寒さを防ぐだけでなく、着替えるだけで手軽に「幸福感」や「高揚感」を得て、人々が「新しい自分」に出会える。そんなアパレルの素晴らしさを、まずは業界自身が再認識すべきである

(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表/東京モード学園講師

カギ&アソシエイツ 代表/スタイルアドバイザー/コンサルタント(ファッション視点からの市場創造)/東京モード学園ファッションビジネス学科講師

1952年、大阪生まれ。奈良県立大学中退。大阪で服飾雑貨卸業を起業。22歳で単身渡欧後法人化代表取締役就任、1997年香港に渡り1998年、現フォリフォリジャパングループとの合併会社取締役に就任。オロビアンコ、マンハッタンポーテージ、リモワ、アニヤ・ハインドマーチなど海外ファッションブランドをプロデュースし、日本市場の成功に導く。また、第1回東京ガールズコレクションに参画。米国の有名ファッション展示会「d&a」の日本窓口なども務めた。時代に沿ったブランディング、MD手法には定評がある。2013年にファッションビジネスのコンサルティング会社「タカギ&アソシエイツ」を設立。著書に『オロビアンコの奇跡』『超入門 日・英・中 接客会話攻略ハンドブック(共著)』(共に繊研新聞社)、『一流に見える服装術』(日本実業出版社)、『アパレルは死んだのか』(総合法令出版)『アパレル業界のしくみとビジネスがしっかりわかる教科書』(技術評論社)などがある。
コンサルタントのタカギ&アソシエイツ

Instagram:@kohichi.takagi

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