<「1億円を超えるのはまずいんじゃないの。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)でも、3千万円ぐらいでしょう」。待っていたのは、官房長官・菅義偉氏の否定的な反応だった>(18年12月25日付朝日新聞より)

 菅の一言で、経産省はJICに対する態度を豹変させる。経産省の糟谷敏秀官房長(当時)は9月21日、JICの社長に内定していた田中氏に書簡で取締役の報酬を提示。9月25日、JICが発足。取締役会は報酬基準を決議していた。ところが11月9日、嶋田隆事務次官(同)がJICを訪れ、田中社長に「9月の文書の白紙撤回」を申し入れた。11月24日、嶋田事務次官と田中社長が再び会談。協議は決裂、会談の場で田中社長が怒って席を立った。

 12月10日、「経産省との信頼関係が毀損した」として、田中社長、取締役会議長の坂根正弘氏(コマツ相談役)など民間出身の取締役9人が一斉に辞任した。経産事務次官との会談で、ケツをまくって席を立った田中氏について「いかにも彼らしい」と苦笑いする金融マンがかなりいた、と伝わる。

 そんな田中氏に目をつけたのがウットラムグループのゴー・ハップジン代表だった。会合を重ね、出資先の日本ペイントHDのトップにふさわしいと感じたゴー代表は田中氏を口説いたという。ゴー代表の熱意にほだされて、田中氏は転身を決意した。

ゴー・オーナーのもと、グローバル企業のプロ経営者の道を歩む

 ゴー代表による日本ペイントHD改革の第2弾が、田中氏を会長に招聘することだった。19年3月、日本ペイントHDの会長、20年3月から社長CEO(最高経営責任者)も兼務した。

 今回の事業集約で世界に挑む「形」は整う。世界の塗料市場は20兆円ある。アジアやアフリカなど新興国の伸びで、市場規模は30兆円まで拡大するとみられている。ウットラム・日本ペイント連合は世界4位につけるが、米PPGのインダストリーズなど欧米勢の上位3社との差は大きい。上位3強の売上高はいずれも1兆円を超えるのに対して、日本ペイントHDの2020年12月期の売上高は7300億円の見込み。ウットラムの事業を加えてようやく9000億円に近づく。

「名誉欲が人一倍強い」(MUFG関係者)と評される田中氏はグローバル企業のプロ経営者の道を選択したということなのか。日本ペイントHDが外国資本になっても構わない。「日本ペイントHDをアジア企業に身売りした」というマスコミの批判の大合唱も気にならない。わが道をゆくのが「ケンカまさ」の真骨頂である。

(文=編集部)

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