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メッシ、決別報道から一転残留の舞台裏…消えぬ経営陣との確執、バルサ暗黒時代再突入か

文=中村俊明/スポーツジャーナリスト
メッシ、決別報道から一転残留の舞台裏…消えぬ経営陣との確執、バルサ暗黒時代再突入かの画像1
リオネル・メッシ(「Getty Images」より)

 リオネル・メッシ、FCバルセロナに残留――。

 約1カ月にわたり、サッカー界のみならずスポーツ界全体を賑わした移籍騒動は、メッシ自身の口からバルセロナ残留を告げることで幕を閉じた。

 サッカー史に残るクラック(名手)に移籍報道が出たのは、今回が初めてではない。バルトメウ会長体制となった2014年以降、移籍報道が取り沙汰されることはたびたびあったが、いずれも信憑性は乏しかった。だが今回の退団騒動は、実現まであと一歩というところまで迫っていたのは間違いない。

 ここ10年間のバルセロナは、まさにメッシと共に歩んだ時間だった。多くのタイトルをもたらしたクラブの象徴であり、15年以上にわたり町のアイドルでもあったアルゼンチン人が他クラブに移籍するというのは、机上の空論のようにも映った。

 ところが、今年8月のチャンピオンズリーグ(CL)でのバイエルン戦敗戦を機に、メッシ自ら退団意思をクラブに伝えたとの報道が飛び交ったのだ。

「ここ1カ月ほど、メッシの去就問題はスペイン国内でもっとも大きな関心を集めるニュースであり、報道される数も圧倒的でした。新型コロナウイルスよりも大きく取り上げられており、あらゆるメディアがメッシの動向を報じた。スポーツ界でもっとも影響力のある1人であるメッシ移籍はアスリートの枠を超え、社会現象化していました。これはバルセロナに限らず、ヨーロッパ全土にまで及んだ。クラブが転換期を迎えていることもあり、メッシは残すべきか、出るべきか、ということがスペイン中で議論されました」(スペイン在住記者)

 だが、60億円超の年俸に加え、880億円とされる莫大な契約解除金を捻出できるクラブは存在しなかった。恩師であるジョゼップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティ(イングランド)やパリ・サンジェルマンFC(フランス)の名前が挙がり、すでに合意に至ったとの報道もあったが、コロナ渦で各クラブの財政が厳しいなか、33歳となったメッシに天文学的な金額を払うことに二の足を踏むのは当然かもしれない。

 メッシは残留を発表したあとのインタビューで、以下のように答えている。

「僕がクラブに、会長に『バルサから出たい』と言ったのは事実だ。バルセロナには若い選手や新しい力が必要だと思っていたし、自分としてもバルセロナでの時間は終わったと思っていたんだ。だけど、自分はこれまで常にここでキャリアを終えたいと言ってきた」

 この言葉からもわかるように、メッシは一度バルセロナを離れる決意をした。その本質的な理由を辿れば、現経営陣への不満に行き着く。

メッシとバルセロナの間に入った亀裂

 2000年以降のバルセロナの低迷期には、必ず会長の“暴走”が絡んできた歴史がある。ジョアン・ラポルタ(03年から10年まで会長職)がクラブに栄光の時間をもたらした一方で、短命に終わった政権も少なくない。それでも、ここまでの内部批判の声がメディアを通して発信されることはなかった。

「現経営陣はこの20年で最低、という意見が大半を占めます。その最大の理由が、メディアとの付き合い方でしょう。近年では『ムンド・デポルティーボ』や『スポルト』といったバルセロナよりのメディアからも、ロッカールームでの争いやクラブ批判の声の記事があがる機会が多くなっていました。クラブ内のお家騒動と派閥争いによって、全盛期のバルセロナであれば圧力をかけてシャットダウンできていたのが、歯止めがかからない状況になりました。

 クラブの求心力が地に落ちたことが鮮明になり、このメッシ騒動で再び暗黒の歴史に突入するのではないか、とも危惧されています。ライバルのレアル・マドリードが、CLを3連覇したあとに、同クラブの象徴であったクリスティアーノ・ロナウドを放出し、モデルチェンジを図ったことに対して、バルセロナは現状維持のまま欧州の舞台では結果を残せなかったことも、批判に拍車をかけました」(同)

 多くのメディアの焦点はメッシ退団ではなく、次第にクラブ批判へと向かっていった。それに対して、この稀代の天才レフティに対しては同情的な声が集まるようになっていった。また、メッシ残留はクラブの未来にも別の大きな意味をもたらすとの指摘もある。

「常勝を義務づけられているバルセロナでは、低迷の打開策として“メッシ依存”から抜け出すタイミングを図っていることも事実です。財政的な面でも、高額なメッシの年俸をいつまで負担し続けるのか、という点もあります。契約期間が終わる来年にフリーで放出するよりも、移籍金が発生する今年しか売却のタイミングは残されていなかったといえます。

 それでもクラブが放出を拒否したのは、来年の会長選を見越したものとの見方が強い。バルトメウや現経営陣に対しては、高額な移籍金で獲得した選手が思うような活躍をせず、またクラブ理念であったカンテラ(下部組織)の育成を軽視しているという批判が相次ぎました。仮にメッシが放出されると、ただでさえ劣勢が予測される来年の会長選で敗戦する可能性が極めて高くなります。そういったクラブの未来よりも自身の保身を優先する姿勢にも、ソシオ(クラブ会員)は敏感に反応しています」(スペイン在住エージェント)

 ルイス・エンリケが監督を退任した17年以降の指揮官は、決してビッグネームではないがOBでありクラブに従順なエルネスト・バルベルデ、キケ・セティエンの両者を据えた。しかし、いずれも解任に至っている。メッシを爆発させる要因のひとつとなった補強指針に関して、前出のエージェントはこう話す。

「メッシとの相性の良く、年齢も若かったアルトゥール・メロがユベントスFC(イタリア)へ移籍して、代わりにベテランのミラレム・ピャニッチが加入したという補強も、引き金となったようです。いずれにしても今季、大鉈が振るわれることは確定的で、チームの顔ぶれは大きく変わるでしょう。そんな状態のチームを短期間でまとめて上位を狙うのは、困難なミッションです。クラブのレジェンドであるロナルド・クーマンを監督に据えたのも、ファンからの批判の矛先をかわすためという経営陣の意図が見て取れますね」

 残留を決めたものの、クラブ批判を繰り返しモチベーションも低下した今季のメッシは、バルセロナにとっても取り扱いが難しく、一歩間違えれば爆弾となりかねない。メッシのバルセロナでの時間が終焉を迎えていることは、もはや避けられない流れなのかもしれない。
(文=中村俊明/スポーツジャーナリスト)

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