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JOCが多少なりとも問題としているのは、国などからコーチに支払われる謝金の一部を協会に寄付させ、海外遠征の時の会食代などに充てていたことだが、当時、これ自体は違反ではなかった。レスリング協会は8月中に、強化担当者内のやりとりであったため当時の事務局長などはその事実を知らなかったことを報告した。
高田専務はキックバックの慣習や、そういったことに使ったことは認めているが、妻の件はもちろん、私的流用は完全否定している。現場を知る強化関係者の一人が笑う。
「キックバックしてもらった金でやった会食には、馳副会長も何度も参加しているんですよ。副会長であり政治家なら、『足しにして』と言って飲食代の一部でも払う立場でしょう。政財界の重鎮を連れて参加する時もあり、いい格好はするけれど、会計を気にしたことは一度もないです」
馳氏の誤算は、キックバックされた金の担当者だったのが、専大の後輩であり当時強化スタッフだった久木留毅・現国立スポーツ科学センター長だったこと。8年以上前の、しかも当時は違反行為でなかったことの責任を問うのなら、当然、久木留氏も責任を負う立場にある。馳氏は久木留氏が強化委員会の会計担当だったことを知らなかったのではないか。「いざとなったら、久木留を切るよ。政治家は、自分の目的のためなら人を切ることなど、なんとも思わない人種だろうから」との声もあるが、果たしてどうなるか。
機密事項が漏れている
さてこのレスリング界の暗闘には『半沢直樹』でも登場するような内通者がいる。もちろん馳氏もその一人であり、もう一人は、彼の息のかかった官僚である。協会の理事会で決定されたことが、すぐにスポーツ庁に伝わりメディアに流れていることから、多くの協会関係者はそれを感じている。前述の関係者はいう。
「ドラマでは、銀行に内通者がいて、機密事項があっという間に白井国交相に伝わる展開でしたが、うちもその通りだったので、笑いました。なぜ協会が発表していないことを、一部のマスコミがいち早く知ることができるのでしょうかね」
世の中、最初に活字やテレビ報道で出たことは、大きなインパクトとして残る。栄氏の時もメディアを使った印象操作でネガティブイメージをつくられた。今回、「週刊新潮」によって強化費を懐に入れたと報じられたことは、高田専務理事の評判を落とし、現政権の打倒に向けて強烈なイメージをつくったことは確かだ。
だが、「倍返し」はドラマだけのことではない。高田専務は名誉毀損での訴訟を起こすなどの「倍返し」を口にしている。ドラマで言うなら、まだ前半が終わったところ。政治家の圧力と闘う高田専務理事ほか現執行部の反撃から目が離せない。
(文=杉本良一)