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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

オーケストラ、実は世界中で“国際規約違反”が横行…舞台上で秘かに行われる緊張のバトル

文=篠崎靖男/指揮者

オーケストラは世界ルールに違反している?

 実は、音というのは少しでも高くしたほうが音の輝きが増す性質があるので、オーケストラはどんどん高くする傾向があります。特にソリストなどは、オーケストラよりもほんの少し高めに調整することで、自分の音を目立たせています。

 とはいえ、一般家庭に設置されるピアノは「440ヘルツ」で調整されていることがほとんどです。したがって、自宅のアップライトピアノでオーケストラと共演しようとしても、ピッチが違うので演奏できないということになります。もちろん、プロのオーケストラなら、なんとか合わせてくれると思いますが、いつもと違うピッチで弾くことは、ちょっとやりづらいことに変わりありません。

 しかし、本当は「440ヘルツ」が正式なピッチで、これは国際会議で物々しく決まった規則です。音楽の音のピッチまで国際会議で決めるものなのかと思われるかもしれませんが、1870年に物の長さをメートル法に統一するメートル条約が国際会議で締結されたように、ピッチも討議に討議を重ねて決められたのです。

 実は、バッハやモーツァルトの頃は、音の高さは場所によってまちまちでした。極端なケースでは、半音も違う場所まであったのです。そうすると、「ド」の音がほかの街や国に行くと「シ」になってしまうわけで、演奏家が違う国の奏者と演奏しようとすると、支障をきたしてしまいます。そこで、1885年にウィーンで会議が行われて「435ヘルツ」に決められたのです。しかし、それでも演奏家は徐々に音を高くすることやめなかったので、1939年に再度ロンドンで会議が開かれ、最終的に「ラは440ヘルツ」と決められて、それが現在でも続いています。

 どこの国でピアノを購入しようと、メーカーが違っても、440ヘルツで調整されているのは、国際会議で決まったルールなのです。そう考えると、オーケストラは国際ルールを破っているのです。

(文=篠崎靖男/指揮者)

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●篠﨑靖男
 桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
 2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
 国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
 現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。ジャパン・アーツ所属
オフィシャル・ホームページ http://www.yasuoshinozaki.com/

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