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江川紹子の「事件ウオッチ」第160回

【全国で自殺者増加】江川紹子「今後、自殺を増やさないために効果的な対策を」

文=江川紹子/ジャーナリスト
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「いのち支える自殺対策チャンネル」が8月30日にYouTubeで生配信した10代に向けた番組『#日曜日の夜に』。

 自殺者の数が、心配な徴候を見せている。

 8月に自殺した人は全国で1849人(警察庁速報値)で、昨年の同じ時期より246人多い。自殺者数は、2003年の3万4427人をピークに、徐々に減少し、昨年は2万169人だった。この減少傾向が一転して増加傾向に転じたのか、あるいは一時的な現象なのかは、現時点ではまだわからない。国は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響がないかなどを分析することにしている。一方、7月半ばの若手俳優の自殺報道の影響を指摘する声もある。

自殺増加の原因、考えられる可能性

 自殺者数は毎月速報値が公表されている。8月の数字は今年に入って最多。ここ10年の統計を見ると、8月は7月に比べて減少することが多いが、今年は前月より54人増加した。

 自殺対策のNPO法人代表で、4月に発足した厚生労働大臣指定法人「いのち支える自殺対策推進センター」の代表でもある清水康之氏は、原因についてこう指摘する。

「今後詳しく分析するが、2つの可能性がある。1つは新型コロナウイルス感染拡大の影響で、(自殺者数が)増加に転じた可能性。もう1つは、7月の若手有名俳優の自殺報道の影響だ」

 今回は、特に女性の増加が顕著だ。昨年との比較では、5月まで減少していたのに、6月にプラス6人と増加に転じ、7月は82人増、そして8月は186人も多かった。

 この現象で思い出すのは、2011年5月に20代の女性タレントの自殺が報じられた直後の状況だ。それまで1日平均82人だった自殺者数が、自殺報道の翌日、いきなり140人に跳ね上がった。その後の1週間も、1日平均124人に増え、増加分の半数以上を20~30代が占め、女性が多かった。

 今回、三浦春馬さんの自殺の第一報が報じられたのが7月18日。翌日以降も、ワイドショーなどで繰り返し報じられた。

 自殺のリスクが高い人が、メディアなどを通じて自殺情報にさらされると、リスクがさらに高まることはよく知られている。世界保健機構関(WHO)は、自殺の連鎖を防ぐために、報道機関に「センセーショナルに扱わない」「繰り返し報道しない」「手段や場所を詳しく報じない」「写真や映像を用いることはかなり慎重に」などの「自殺報道ガイドライン」を勧告している。

 日本でも、このガイドラインを意識した報道を心がけるメディアが増えてきたものの、写真や映像を使いながら繰り返し報じ、自殺の手段や場所、手帳に書かれたメモの内容などを伝えたテレビ番組もあった。

 清水氏らは今後、この自殺報道の影響を詳しく分析することにしている。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響も懸念される。

 コロナ禍との関連では当初、自殺者はむしろ減っていた。日本国内で感染者が相次いで確認された2月は、昨年比164人減。以降、毎月の自殺者数は、昨年に比べて3桁の数の減少が続いた。特に、緊急事態宣言が発出された4月は、昨年比で326人も自殺する人が減った。5月も289人減っていた。

 清水氏は、「災害などの直後には、自殺者は減る傾向がある。コロナ禍で命の危険を感じ、身を守ろうとしたり、危機を乗り切るため連帯感が生まれたりして、(自殺者が)減少した可能性がある。また、もともと不安や生きづらさを抱えていた人たちが、『そういう思いを抱えているのは自分だけではない』と、ある種の安心感を抱いたことも影響しているだろう」と分析。そのうえで、こう警鐘も鳴らしてきた。

「こうした減少は一時的なもの。リスクが低下したわけではない。経済状態の悪化により、生活苦や今後の不安など、自殺につながるリスクは高まる。対策を取らなければ今後自殺に追い込まれる人が急増しかねない」

 実際、自殺者数は6月に前年比96人減と減り幅が少なくなり、7月に増加に転じた。その経緯を見ると、自殺報道の影響だけとは考えにくい。生きづらさを抱えながら4月、5月にはなんとか持ちこたえていた人たちが、コロナ禍でさまざまな支援に制約が出るなか、力尽きてしまった可能性もある。

 自殺対策推進センターが4月末、自殺防止や自死遺族支援等に取り組む全国の民間団体に調査したところ、新型コロナウイルスの影響で、8割以上が活動の制限や休止を余儀なくされていることがわかった。その後、多くの団体が活動の再開をしているが、財政面などから感染対策で苦労しているところも多い、という。

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