これが世間に不信感を募らせ、暗黙のルールとなっていた事前通告という悪しき慣習が打破されることになる。

安倍政権を支えた内閣広報官の暗躍

 事前に質問の取りまとめや官邸に不都合な質問をする記者を指名しないという、いわば官邸の守護神ともいうべき大役を担っているのが内閣広報官だ。

「内閣広報官が新設された当初は、重責を担う役職とは見なされていなかった。それは、首相会見を全編にわたって放送するメディアがなかったことも一因としてある。NHKは首相会見を生中継するが、放送するのは冒頭の首相発言まで。記者の質問部分は放送しないこともある。しかし、時代とともにネットメディアが台頭し、全編を生中継できるようになった。そのため、都合の悪いシーンが世間に流れてしまう事態が出てくる。その対策として、そもそも『都合の悪い質問をする記者を指名しない』という暗黙の流れができていった」(記者)

 そして、内閣広報官の役割が重要であることを印象付けたのが、第一次安倍政権の発足と同時に内閣広報官に就任した長谷川栄一氏だった。第一次安倍政権時はネット生中継は一般的に行なっていなかった。しかし、第二次安倍政権ではフリーランスの記者やネットメディアも首相会見に参加するようになり、それまでテレビ・新聞といった統制できる記者たちだけを相手にするわけにはいかなくなった。そのため、官邸は情報統制に苦慮するようになり、内閣広報官経験者で熟練の長谷川氏を呼び戻した。

 長谷川氏は司会進行役として、首相会見を全面的にコントロールした。政権にとって不都合な情報は漏らさないように努めた。こうした内閣広報官の暗躍が、安倍政権を長期政権に押し上げた原動力でもある。

 8月28日に安倍首相が退任会見を実施したが、「引き継ぎなどの関係もあって、長谷川広報官は退任せず、当面は続投するだろう」というのが大手紙の記者の見立てだった。9月16日に実施された菅義偉首相の就任会見では、内閣広報官は山田氏に交代していた。

 女性の内閣広報官抜擢は初であり、菅首相が山田氏に全幅の信頼を寄せていることが窺える。しかし、その手腕は未知数。今回、菅内閣はサプライズ人事がないといわれているが、実のところ山田氏の内閣広報官就任こそが永田町・霞が関の関係者にしかわからないサプライズ人事だったといえる。

(文=小川裕夫/フリーランスライター)

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