出版文化の破壊?夢眠ねむもつぶやいた「#出版物の総額表示義務化に反対します」の背景の画像4
2019年5月1日時点で、日本国内の書店数は1万174店(アルメディア調べ)。現在はすでに1万店を切ったとの説もある。

多品種・少量・長期流通、再販制、委託販売…書籍という“特殊商品”

「まず、書籍というのは『多品種・少量・長期流通型』の商品なんです。『本』というたった一カテゴリーの商品がこれだけ大量に陳列販売されている……という事態って、他業界と比較するとずいぶん特殊ですよね。しかも、ごく一部のベストセラー本やマンガを除けば、それらひとつひとつの商品は、月に数冊か数十冊売れるかどうか……というレベルでしか売れていかない。そしてそれゆえに、書店ないし書店のバックヤードに並んでいるものだけが在庫のすべてではなく、本の流通を担っている取次会社や、その本を製作した出版社の倉庫などに少しずつ在庫があり、長期間保管され続ける……という、かなり特殊な商品なんです。

 さらに出版業界を特殊な業界たらしめているのが、『再販売価格維持制度』と『委託販売制』でしょう。前者は一般に『再販制』と呼ばれ、要は書籍を販売する小売店に価格決定権がない、というもの。つまり基本的に、メーカーである出版社の側が販売価格=定価を定めることができるという、独占禁止法の適用除外措置を受けている業界なんです。

『委託販売制』は、小売店への商品卸しは基本的には買い切りではなく、出版社の所有物のまま本という商品を置かせてもらっているだけ、というシステムのこと。ゆえに小売店である書店は、売れ残った本を一定期間内であれば出版社に返品することができる。これは、先に述べた通り多品種・少量という出版物の商品特性によって生じる、書店側の販売リスクを下げるための制度ですね。

 こういった特殊な事情があるので、書店側には価格決定権がなく、価格表示を変えるとすれば出版社側に義務がある。しかし出版社は手がけている商品数が多いので、そのすべてを総額表示に変えるのには莫大なコストがかかり、本の売上規模から考えるとそのコストをかけるにはリスクが高いので避けたい、というのが出版社側の理屈なわけです」(同・雑誌記者)

 では、なぜこのような特殊性が許されているのだろうか。もちろん直接的な理由としては、先述した「多品種・少量・長期流通型」という商品特性があるから、である。「しかし、その根底にあるのは、『本は文化の担い手である』という、ある種の選民意識のようなものではないかと思いますね」と、この雑誌記者は続ける。

「例えば『スーパーの隅で売れ残っているたいしておいしくもないお菓子』と『書店の隅においてあって1年に数冊売れればいいほうだけれども、しかし非常に重要な価値のある歴史書』とを同一視はできないでしょう。本、そしてその背景にある活字文化というのは、人の知的活動にとって欠くべからざる存在であり、その意味において、やはり守られるべきものだとは思います。

 しかし、だからといって、なんでもかんでも『本は特殊なんだ、守られるべきなんだ』とし、『だから、手間がかかる総額表示への切り替えなんて無理なんだ』と主張されているのだとしたら、個人的には少し違和感を感じてしまいますね」(同・雑誌記者)

わざわざ全商品を総額表示にしなければならないのはナンセンス

 こうした点について、中堅出版社で実用書を担当するある編集者は、このように語る。

「現時点でうちの会社では、総額表示問題に対してどう対応するのか、という具体策は、現場の編集者にまでは下りてきていないですね。ただ、Amazonなどネット小売店にも販路が広がってこれだけ多くの本が流通しているなかで、再販制によってどこで買っても基本的には同じ価格、しかも家電やクルマみたいな高額商品でもない本に対し、わざわざ全商品を総額表示にしなければならないというのは、少々ナンセンスだとは思いますね。これから先、またいつ消費税率が上がるかもわからないわけですし、『本体価格+税』という表記で十分じゃないかと。

 本に挟むスリップに総額表示されていればいいといわれても……。スリップは以前は書店での在庫管理に使われていましたが、現在ではPOS管理が一般的になっていて、環境問題的な観点から紙の使用は減らそうという意味でも、使用する出版社は減っていますしね。実際、うちも少し前に廃止してしまいました。

 仮に、新たに総額が表示されたしおりやシールをつくるにせよ、その製作コスト、そしてそれを既存の本にひとつひとつ入れたり貼ったりしていく手間を考えると……やりたくない、のひと言に尽きます(笑)。その作業を印刷屋さんなどに頼むと1冊につき5円とか取られちゃいますし、本の印刷代から何からコスト圧縮のために日々頭を悩ませている現状からすると、そうした作業を外注できるのは、体力のある大手出版社だけではないでしょうか」