
米国の大統領選挙は、投票日まであと1カ月あまりとなり、トランプ・バイデン両陣営の活動がヒートアップしているが、今回の大統領選挙の序盤はまったく様相を異にしていた。
今年始めの民主党大統領候補の指名争いで優勢だったのはサンダース上院議員であり、自らを「民主社会主義者」と位置づけるサンダース氏に米国の若者たちは熱狂していた。米フォーブス誌が18~29歳の有権者1000人以上を対象に2月下旬に実施したアンケート調査によれば、民主党候補者のなかで最も多くの支持(38%)を得ていたのはバーニー・サンダース氏だったが、ベルリンの壁崩壊後に生まれた米国の若者たちは「社会主義」にまったく違和感を感じていない。現在の資本主義のあり方に疑念を抱く彼らが憧れる「社会主義」とは、いったいどのようなものなのだろうか。
国家主導の計画経済の下で政治家や官僚が絶大な権力を握っていた「ソビエト連邦型の社会主義」ではないことは間違いない。若者たちの具体的な要求は「無料で提供される医療」「授業料が無料の大学」などであり、「産業の国有化」や「富の没収」を主張する者はほとんどいない。フォーブス誌は、若者たちのことを「貧しい家庭に生まれた赤ちゃんに、裕福な家庭の赤ちゃんと同等の機会が与えられることを政府が保証すべきだ」と考える資本主義社会における平等主義者と捉えている。
現在の大統領選挙キャンペーンのなかにサンダース氏を熱狂的に応援した若者たちの姿を見ることはできないが、コロナ禍で社会の不平等がいっそう進むなかで、彼らの「社会主義」に対する期待は高まるばかりだろう。
コモン(共有地)の再生という発想
米国の若者たちのもうひとつの特徴は、「自分が属するコミュニティーをより良くすることは、リーダーひとりのせいにするのではなく、メンバー全員が負うべき責任だ」と考えていることである。職場や政治のあり方についても同様である。米国の若者たちが求める「社会主義」は、福祉政策の拡充を声高に叫ぶだけではなく、変革の動きに自らが積極的に参加することを望むものであると考えられる。
資本主義が発展する以前の欧州社会においては、人々の生活に不可欠なものを民主的に管理するという「コモンズ(共有地)」という慣行があった。コモンとは、社会的に人々に共有され、管理されるべき富のことである。日本でいえば、里山などがこれにあたる。
「中世の共有地は、現代において協同組合という新たな形を得てよみがえった」