
この夏、ある1頭の馬を追いかけてきた。
9月21日に行われたセントライト記念を制したバビット。菊花賞で三冠制覇がかかるコントレイルのライバルとなった馬である。実はこの馬、2019年5月に行われた北海道トレーニングセールにてわずか540万円(税込み)で落札され、その1年半後に1億1368万円もの賞金を稼いだ「お宝馬」なのである。
一口馬主を長いことやっている私は、知り合いの個人馬主さんから「いい馬がいたら教えてくれ」とトレーニングセールに関する資料を渡された。上場馬をつぶさに観察、「気になった馬リスト20頭」にバビットを入れていた。私的リストの順番は20頭中18番目であり、私が馬主さんに伝えた入札価格の上限は「150万円」。
おもしろい馬だが走る確信は持てず、何より馬主さんに損をさせたくない。いい感じの馬をできる限り安い価格で手に入れる、という感覚だった。
獲得賞金と購入代金の2つの予測
JRA(日本中央競馬会)の場合、クラスが上がるごとに賞金は高まり、GI最高峰のジャパンカップもしくは有馬記念を勝つと3億円を超える。歴代最多賞金を獲得したGI7勝馬テイエムオペラオーは19億円、第2位のキタサンブラックは18億円を稼いだ。このような馬はまさに「砂漠で宝石」だ。
歴史に残る名馬とはいかないが、最低ランクの未勝利戦を勝ち上がり約650万円の賞金を手にする競走馬は、およそ10頭に1頭ほど。確率にして10%だ。セールの上場馬257頭を見て「お買い得リスト」を20頭としたのも、この確率が頭にあったからだ。
馬主が手にする優勝賞金の最低価格も、この約650万円である。対して、馬主が厩舎に支払う月々の預託料は1頭あたり約60万円。半年預ければ360万円の出費となる。このほかに育成牧場での預託代などを考えると、馬を購入した時点で、少なくとも500万円弱の経費がかかることを考えなければならない。
多くの馬主がいいと感じる若駒には多くの競争相手が集まり、値段はどんどん高騰する。ディープインパクト産駒などが代表的だろう。対して、見向きもされない馬(セリで手が挙がらない馬)は後に販売希望者との直接交渉となり、低価格で購入できる可能性が出てくる。
落札されそうにない馬、と考えた1頭がバビットだったのだが、私の考えは甘かった。
後で知ったのだが、バビットは18年のHBAオータムセールで(有)グランドファームが150万円で購入、馴致と育成をした上で販売者としてセリに出していた。間違いなく、150万円では買えなかったのだ。
バビットを選んだ理由とは
セリの結果を記す前に、バビットを選んだ理由を書き添えよう。まずは血統だ。父ナカヤマフェスタの産駒は323頭がデビューしており、JRAでの勝ち上がり馬は25頭しかいない。獲得賞金1000万円を超えた産駒は27頭、500万円を超えた産駒は55頭(20年9月21日現在)。バビットを除くと、1394回の出走で1着わずか53回。獲得賞金1億円超はわずか2頭だ。