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なぜ三菱は日産・日立とばかり組むのか?日産コンツェルン100年史と三菱自動車買収騒動

文=菊地浩之
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久原鉱業の債務整理に成功し、日産コンツェルンを創始した、鮎川義介。1880(明治13)年、旧長州藩士・鮎川弥八のもとに生まれた。(画像はWikipediaより)

三菱UFJリースと日立キャピタルの合併

 三菱UFJリースと日立キャピタルが、来年2021年の春に合併するとの報道があった。

 いうまでもなく、三菱UFJリースは三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱商事の合弁会社であり、一方の日立キャピタルは日立製作所の持分法適用会社である。合併後は、日立製作所が持ち株を三菱商事に売却し、三菱グループが主導権を握る方向だという。

 実は、日立製作所の母体となった戦前の日産コンツェルン(日産財閥ともいう)の傘下企業と三菱グループ企業との業務提携、経営統合は少なくない。

そもそも「日産コンツェルン」とは何か?

 日立製作所は、もともと日立鉱山の工作機械修理工場を分離して設立された。

 日立鉱山はもともと赤沢銅山と呼ばれていたが、長州出身の事業家・久原房之助(くはら・ふさのすけ)が同銅山を買収。茨城県日立村(現・日立市)にあったので、久原鉱業所日立鉱山事務所と名付けて経営に乗り出し、巨万の富を築いて久原財閥と呼ばれた。

 第一次世界大戦後の反動恐慌で久原財閥は経営危機に陥り、1926年に久原の義兄・鮎川義介(あいかわ・よしすけ/1880〜1967年)に債務整理が委ねられた。

 鮎川義介は元長州藩士の子に生まれ、東京帝国大学機械工学科を卒業。工学士の肩書きを隠し、一職工として芝浦製作所(現・東芝)に入社。現場での経験や近在の工場を見聞した結果、わが国機械工業の弱点が、鋼管・可鍛鋳鉄(かたんちゅうてつ)の製造技術の未熟さだと結論づけた。鮎川は芝浦製作所を2年で退社し、渡米して可鍛鋳鉄の技術を習得。帰国後、親族縁者の支援を受け、1910年に九州戸畑に戸畑鋳物(とばたいもの/現・日産自動車)を設立した。その成功が認められて、久原財閥の経営再建を託されたのだ。

 鮎川は資金調達に奔走。実弟・藤田政輔(ふじた・まさすけ)が藤田家の養子になっていたので、その未亡人に40万円の資金援助を申し入れた。鮎川はそのカネで久原鉱業の債務整理に成功。久原鉱業社長に就任した。

 鮎川は親族による資金拠出に限界を感じていたので、久原鉱業を日本産業と改称して持株会社に改組。大衆資本を動員した「公開持株会社」を実現することで、積極的な事業展開を図った。日本産業は、鮎川の親族が経営する企業を次々と傘下に組み入れ、1930年代後半には三井・三菱財閥に次ぐ、国内第3位の(つまり住友を越える)巨大財閥へと成長した。

 戦後、三井・三菱・住友財閥は、銀行を中核とした企業集団(三井・三菱・住友グループ)へと再編した。換言するなら、銀行を持たなかった日産コンツェルンは、企業集団・日産グループへと再編することができなかった。日産コンツェルンは、親睦会を設けて「日産・日立グループ」と名乗ったものの、三井・三菱・住友グループの対抗勢力にはなり得なかった。

 しかも、1997年に日産生命保険が経営破綻すると、金融当局は日産・日立グループに資金拠出を要請。日産自動車、日立製作所はこれを拒否し、むしろグループを名乗ることにデメリットを感じるようになった。日産・日立グループはかつて春光(しゅんこう)会館で会合を持っていたことから、現在では「日産・日立グループ」と名乗ることさえやめ、春光グループと改称して細々と親睦活動を続けている。

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日産自動車による事実上の三菱自動車買収

 日産・日立グループ企業と三菱グループ企業の提携、合併といえば、日産自動車による三菱自動車の事実上の買収が有名である。

2016年に三菱自動車が燃費データを改竄して、燃費を実際より最大15%もよくみせていた偽装工作が発覚、経営危機に陥った。

 三菱自動車工業の偽装工作はこれが初めてのことではなく、2000年、2004年に「リコール隠し事件」が発覚して経営危機に陥り、三菱グループは総力を挙げてこれを支援。最終的に三菱重工業が関連会社化して再建に道筋をつけていた。再度にわたる偽装工作に三菱グループもさじを投げ、日産自動車による実質的な買収を認めたのだ。

 三菱自動車は第三者割当増資を行い、その3割強の株式(約2000億円)を日産自動車に割り当て、実質的に傘下に入ることになった。

旧日本鉱業による結果的には三菱石油買収

 いわば、三菱自動車は三菱グループの問題児だったのだが、問題児といえば、もう一社、三菱石油(現・ENEOSホールディングス)があった。

 三菱自動車と三菱石油は共に外資系企業との合弁会社として設立され、中途半端な立ち位置を活かして自由気ままに経営していたといわれている。その結果、三菱石油は1997年3月期決算で82億円もの経常赤字に陥ってしまう。時あたかも石油業界は規制緩和で業界再編の真っ只中にあり、三菱石油は自主再建を断念。日本石油との合併に同意し、1999年に両社は合併を発表した。

 合併後は三菱グループに一定の配慮を見せ、日石(にっせき)三菱を名乗ったが、2002年に新日本石油と改称、三菱商号が外された。

 そして、2010年に新日本石油と新日鉱ホールディングスと経営統合し、JXホールディングスとなるのだが、新日鉱ホールディングスの母体が日本鉱業(旧・久原鉱業所)なのだ(さらにJXホールディングスが2017年に東燃【とうねん】ゼネラル石油と経営統合してJXTGホールディングスとなり、ENEOSホールディングスに改称)。

 日本鉱業が三菱石油を直接合併したわけではないけれども、結果として、日産・日立グループの傘下に屈することになったのだ。三菱グループは三菱商号とスリーダイヤ社章を何より大事にして、それに固執するがゆえに他社との合併が少ない。「社名に三菱商号が残せないなら」といって破談にした合併話もあるくらいだ。だから、三菱石油の吸収合併は、三菱グループにとってあまり気持ちのよいものではなかった。その延長に日産・日立グループである。しかも、日産・日立グループ企業と三菱グループ企業の組み合わせは、それで終わらなかったのである。

日立製作所と三菱重工業の合併話が浮上

 2011年8月、日本経済新聞が、日立製作所と三菱重工業の経営統合をすっぱ抜いた。

 結果的には誤報になったのだが、それよりも識者の多くが、新聞紙面に掲載された数字に驚かされた。三菱重工業の売上高が日立製作所の半分にも満たなかったのである。

 三菱重工業といえば、三菱御三家の一角を占め、高度経済成長期にはメーカー日本一だった。いつの間に日立製作所とこんなに差が付いてしまったのか。仮に合併したら、三菱の名前が消える可能性すらあった組み合わせだった。

 ちなみに、両社はそれまでも、発電システム事業や製鉄機械などの事業分野ごとに子会社を分離して統合を進めていったパートナーではあった。

なぜ、三菱は日産・日立と組むのか

 以上、日産自動車と三菱自動車、旧日本鉱業と三菱石油、日立製作所と三菱重工業の提携・合併について見てきた。

 ではなぜ、三菱グループ企業と日産・日立グループとの組み合わせが多いのか。

 三菱グループは第二次産業、特に重化学の加工業分野に圧倒的に強いのだが、日本でこの分野に強い企業は戦前の財閥を母体とする、いわゆるオールド・カンパニーに多い。

 三大財閥同士の経営統合は、三井・住友が経営統合するまで大きな障壁があり、三井・住友の経営統合後も、三菱が三井・住友いずれかの企業と合併するのは敷居が高いような気がする(そもそも三井は重化学工業に弱く、住友は素材産業が多いので、三菱とマッチする組み合わせ自体が少ないのだが)。そうなると、一時は国内第3位だった日産コンツェルンの傘下企業くらいしか相手が残っていないのではないか。

 つまり、日産・日立グループにポイントを定めて提携しているのではなく、ちょうどいい相手を探していたら、たまたま日産・日立グループに属する企業だったということが多い……のが真相に近いのだろう。

 ただし、上記3のケースを見る限り、三菱グループから見ると主導権を取ることができず、相性はよくない。今回、三菱UFJリースと日立キャピタルの合併では、三菱グループが主導権を取ることができ、一矢報いる形になりそうだ。

(文=菊地浩之)

菊地浩之

菊地浩之

1963年、北海道札幌市に生まれる。小学6年生の時に「系図マニア」となり、勉強そっちのけで系図に没頭。1982年に國學院大學経済学部に進学、歴史系サークルに入り浸る。1986年に同大同学部を卒業、ソフトウェア会社に入社。2005年、『企業集団の形成と解体』で國學院大學から経済学博士号を授与される。著者に、『日本の15大財閥 現代企業のルーツをひもとく』(平凡社新書、2009年)、『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』(角川選書、2017年)、『織田家臣団の系図』(角川新書、2019年)、『日本のエリート家系 100家の系図を繋げてみました』(パブリック・ブレイン、2021年)など多数。

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