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木下隆之「クルマ激辛定食」

BMW「Z4・M20i」、予想を裏切る軽快な走り…驚異的ボディ剛性が実現する操縦安定性

文=木下隆之/レーシングドライバー
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BMW「Z4・M20i」

 BMWがリリースする「Z4」は、トヨタ自動車の「スープラ」と“二卵性双生児”の関係にある。ただし、決定的に異なるのは、スープラがルーフを備えたクーペであるのに対して、Z4はオープン専用車であることだ。ルーフはキャンバストップで、わずか15秒で開閉する。いつでもどこでも、その気になればすぐさま爽快なオープンエアモータリングが堪能できるのが特徴なのだ。

 そんなZ4は、日本に2つのパワーユニットが正規輸入されている。「M40i」と名乗るモデルは、驚くほど力強い直列6気筒3リッターターボを搭載、最高出力340psを炸裂させる。“激辛オープンスポーツ”といっていい。

 それに対し、今回紹介する「M20i」は、それより数値の上では大人しく、直列4気筒2リッターターボを搭載、最大出力は197psにとどまる。つまり、コーナーを激しく攻めたてて獲物を追うような過激さよりも、陽の光と風を感じながら優雅にクルーズするタイプなのであろうと想像できる。

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 実際にM20iは、なかなか軽快なフットワークを披露する。もともとオープン専用設計だから、ボディ剛性に不足はない。ボディはミシリとも軋まない。フロントガラスに貼り付けてあるバックミラーも、たとえ荒れた道を走ったとしてもブルブルとにじむことはない。驚くほどのボディ剛性が確保されているのだ。

 一般的に、ルーフを失うとボディ剛性の50%を失うという。クーペボディからルーフを切り取るという手法で開発されたオープンモデルの場合、さまざまなボディ補強が必要となる。パネルの接合部には接着剤を多用し、スポット溶接増しを加える。建設途中の足場のようにトラスを張り巡らせ、強固なボディに仕立てなければならない。

 だが、それは重量増というデメリットを生む。トラスがルーフやドアといった開口部に干渉し、理想的なボディ剛性が成立しないこともある。そもそも、プラットフォームや鉄板の厚みを増すことは、基本設計からやり直さなければならず、コストとのバランスで現実的ではない。よって妥協することになる。

 その点、オープン専用車であるZ4ならは、あらかじめ細工をしておくことが可能になり、クーペ派生型オープンモデルより優れていることが多いのだ。

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 走りは爽快である。直列4気筒2リッターエンジンはさすがに劇的に力強いわけではないが、ワインディングを駆け上がるには必要にして十分なトルクが備わっている。そしてそれよりも、高剛性のボディを得られたことで可能になった硬い足回りが組み合わされている。その気になってコーナーを攻め立てても、決して音を上げない操縦安定性なのだ。

 試乗前には、激しい走りは「M40i」に譲り「M20i」は速さを抑えた領域での爽快なドライブが主体のモデルだと想像していたが、やや誤りがある。確かに速さでは「M40i」に軍配が上がるものの、走りの質はまごうことなきスポーツカーなのである。

 フロントに搭載されるエンジンは、直列4気筒であることから軽量だ。コーナーに飛び込み、ステアリングを切り込んだ瞬間に感じる軽快感は、それが源なのだ。スパルタンという言葉は当てはまらないが、十分にハードな走りに耐える。それが「M20i」なのである。

 1996年にデビューしたZ3の流れを汲むZ4は、これまで数々のオープンカーを生み出してきたBMWのノウハウが注ぎ込まれている。オープンスポーツ巧者・BMWらしさの際立ったモデルである。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

木下隆之/レーシングドライバー

木下隆之/レーシングドライバー

プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

Instagram:@kinoshita_takayuki_

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