
NTTは上場子会社の携帯電話大手、NTTドコモの全株式を取得し、完全子会社にする。TOB(株式公開買い付け)によって残り3割強の株式を一般株主から買い取る。買付価格は1株3900円で総額4.25兆円。国内企業のTOBとしては過去最大となる。直近半年の終値の平均(3018円)に約3割のプレミアムを加算した。買付期間は9月30日から11月16日まで。
三菱UFJ銀行から1兆5000億円、三井住友銀行から1兆2000億円、みずほ銀行から7000億円、農林中央金庫から4000億円、三井住友信託銀行から3000億円、日本政策投資銀行から2000億円を、それぞれ借り入れる。6行は4兆3000億円の協調融資を実行する。
NTTはドコモ株式の66.21%を保有している。NTTの筆頭株主は財務大臣で34.69%を保有。電気通信事業の安定性の観点から、NTTの発行済み株式総数の3分の1以上を政府が保有することが定められている。そのためNTTは時価発行増資で資金を調達することが難しく、TOBの資金は全額手元資金と借り入れで賄う。超大型のM&Aでは極めて珍しいケースだ。
ファイナンシャル・アドバイザーに、NTTは三菱UFJモルガン・スタンレー証券、ドコモは野村證券を起用。ドコモはNTTによるTOBに賛同し、TOB完了後に東証1部市場を上場廃止となる。
NTTの澤田社長がドコモの吉澤社長に引導を渡すのか
「すでにドコモは3番手」。
NTTの澤田純社長とドコモの吉澤和弘社長は9月29日、オンラインで共同記者会見を行ったが、澤田社長はこの言葉を3度も繰り返した。隣に座ったドコモの吉澤社長の姿は、ドコモ失速の象徴のように見えた。ドコモ生え抜きの吉澤社長にも言い分はあろうが、押し黙っていた。
ドコモは1999年に世界に先駆けインターネットサービス「iモード」を開始した。2000年代後半から10年代はスマートフォンの拡大の波に乗り、ドコモがNTTグループの稼ぎ頭となった。
しかし近年、ドコモは苦戦が続く。KDDI(au)とソフトバンクは自社内に格安な別ブランドを立ち上げ、ドコモから顧客を奪った。2019年の法改正に対応し、ドコモは最大で4割の値下げをうたう新プランを始めたが、これで収益が大幅に落ちた。20年3月期決算の営業利益は大手3社で最下位となった。21年3月期も最下位の見通しだ。
「こうした迷走ぶりに、澤田社長の堪忍袋の緒が切れた」(NTT関係者)
完全子会社化とともに、ドコモの社長人事が発表になった。吉澤社長は12月1日付で社長を退任、今期中は平の取締役に降格となる。持ち株会社から送り込まれた井伊基之副社長が社長に昇格する。ドコモは3月決算企業。4月1日付か6月の株主総会後に社長が交代するのが一般的だから、12月1日付は異例の人事といえる。