藤井聡太、早くも崖っぷちに…「AI漬け」から「対人研究」に戻った豊島将之に6連敗の画像2
藤井聡太二冠(日本将棋連盟提供)

 将棋などの強い人は図形的なものを頭に焼き付ける能力が高く、右脳が非常に発達しているとよくいわれる。しかし、NHKスペシャル『藤井聡太二冠 新たな盤上の物語』によれば藤井は通常、将棋を指すときに頭の中に盤面を描かずに、AIのように基本的に「3一銀」「2七角」などのように符号で組み立て、たまに盤面で考えるのだという。アマチュアでも強豪は、将棋盤を一切使わずに「7六歩」「3四歩」「2二角成」などと2人で言い合って終局までもっていくことができる。しかしアマ強豪でもプロでも基本的に盤面を頭に置いて指している。「たまに盤面」というのは驚く。 

 藤井は幼い頃から「ふみもと子供将棋教室」で目をつぶって詰将棋問題の駒の配置を聞いて解答したり、目隠しで対局する訓練を文本さんから受けていた。子供の時からそんな訓練をする将棋教室は珍しく、それがAI的な頭脳と共通しているかもしれない。

藤井聡太、早くも崖っぷちに…「AI漬け」から「対人研究」に戻った豊島将之に6連敗の画像3
豊島将之二冠(日本将棋連盟提供)

藤井は「AIと共存」

 さて、最初に将棋の棋士がAI(ボンクラーズ)に敗れたのは2012年、元名人・永世棋聖の米長邦雄だ(引退後の最晩年であり全盛期ではなかった)。

 1995年、千葉市で彼の講演を聴いたことがある。「兄貴たちは馬鹿だから東大に行った。私は賢いから棋士になった」と宣(のたま)うだけあって政治(作家・タレントの青島幸男が大方の予想に反して当選した東京都知事選挙)にまで及ぶ話は実におもしろかった。そのなかで彼はコンピューターに言及した。

「昔の名人などの棋譜は、これまでは図書館などで書籍を必死に探さなくてはならなかったが、コンピューターでその必要がなくなった。余った時間ができる分、いいのかもしれないがその程度。コンピューターは膨大なデータが入っている。しかし、だからといってそれを研究していれば将棋が強くなるものでもない。立派な広辞苑を持っているからといって名文は書けないのと同じですよ」

 筆者の記憶なので発言は字句通りではないが、当時、コンピューターはまだデータ集積の「辞書」でしかなく、米長による評価も低かった。それが後年にはAI自身が手を読むようになり人間と戦う存在になる。そしてついに2017年、現役名人だった佐藤天彦をAI(ポナンザ)が倒した。現在はAIに人間が勝てないことが明白になり、一時、盛んだった人間対AIの「電脳将棋」はあまり見られなくなった。

 藤井はAIについて「共存」と語っている。一方で「AI漬け」だった豊島は「対人間」にも回帰した。その豊島が藤井に6連勝したのはどこに差があったのか。多くの棋士がAIを使用して研究しているなか、藤井と豊島の2人はAIと人間の頭脳を考える上で最も興味を引く棋士である。

(文=粟野仁雄/ジャーナリスト、敬称略)

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