
日本プロ野球(NPB)の新人選手選択会議、通称「ドラフト会議」が間近に迫ってきた。今年の目玉は、投手なら早稲田大学の最速155キロ左腕・早川隆久、野手なら近畿大学の左のスラッガー・佐藤輝明というのが、各球団の評価だろう。
現在は指名が重複すると抽選で交渉権が決定するが、かつてはこうした金の卵を獲得するために、ドラフト対象選手(大学生・社会人のみ)が自分の行きたい球団を宣言できる“逆指名制度”を導入するなど、必死の獲得合戦が行われていた。
一方で、この逆指名制度の弊害で、さまざまな問題も起こっている。そこで今回は、逆指名制度に代わり、大学生・社会人から最大で2名をドラフト会議前に獲得できる“自由獲得枠制度”が設けられた2001年以降に起きたドラフト絡みの事件をご紹介しよう。
まず、最初は02年のドラフトである。この年、複数の球団が自由獲得枠で立教大学のエース・多田野数人の獲得を目指していた。なかでも有力視されていたのは横浜ベイスターズ(現・横浜DeNAベイスターズ)だったが、直前で指名を回避してしまう。その理由は「諸般の事情を総合的に検討した結果」という、不十分な説明だった。
当時のスポーツメディアのなかには「故障のため指名回避」と伝えるところもあった。確かに、ドラフト直前に多田野は右肩と右ヒジの治療を理由に国際大会出場を回避してはいるが、これが理由の第一ではないらしい。というのも、この年の夏ごろからネット掲示版などで、ある“ゲイビデオ”に多田野そっくりの男優が野球部の後輩たちと出演しているとの噂が流れていたからだ。しかも、立教大の監督が事実と認めてしまったのである。
結局、横浜以外の球団も多田野の指名を見送ることになる。当の多田野は渡米し、2003~07年の米メジャーリーグ挑戦時代を挟んで、07年のドラフトで“外れ1位”ながら、ようやく指名されている。紆余曲折ありながらも晴れてNPBの選手となった多田野は、14年まで同球団でプレーしている。
金銭不正授受が判明、大問題に発展
次に大きな事件が起きたのは04年だ。これは直接のドラフトではなく、ひとりの有望選手の獲得をめぐって起きた、金銭不正授受問題である。“一場事件”といえば、おわかりになる方も多いだろう。
これはドラフト会議直前に当時、明治大学のエースだった一場靖弘に対し、この年の自由獲得枠での獲得を目指していた数球団が、日本学生野球憲章に反して現金を渡していたことが発覚した事件である。
その球団とは、読売ジャイアンツ、阪神タイガース、横浜の3球団である。阪神は03年12月~04年3月の間に総額約25万円、横浜も03年12月~04年5月の間に総額約60万円を渡していたが、ケタが違ったのが読売だ。
03年12月~04年6月までの間に、数回にわたり総額約200万円のも現金を渡していたのである。その名目も、食事代、交通費、小遣いなどと多岐に渡り、なんとか“裏金”にはしないという、まさに苦肉の策。
当然、この3球団のオーナーなどの幹部は、辞任等の処分されることになった。また、一場本人も最後の秋のリーグ戦を前に退部届を提出している。
加えて、金銭授受をしなかった残りの球団も一場の指名には消極的だったため、本人はNPB入りを断念し、MLB挑戦などを検討していた。