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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

半導体微細化競争のカギ握るEUV、サムスン電子がTSMCに勝てそうもない理由

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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 これに対して、サムスン電子はどうか。サムスン電子は19年7月2日、新型スマートフォンGalaxy Note 10用プロセッサExynos 9825を、EUVを用いた7nmで製造したことを発表した。その後も、19年後半に6nm、今年は5nmと、微細化の数字だけを見れば、TSMCに対して引けを取っているようには見えない。しかし筆者は、サムスン電子の7nm、6nm、5nmには、△をつけている。

 その根拠は、サムスン電子のEUV技術がTSMCほど成熟しておらず、歩留りも良くないため、EUVを使って大量生産を行っているとはいいがたいからである。その証拠に、サムスン電子は、画像プロセッサGPUで世界を席巻しているNVIDIAの7nmビジネスを失注したらしい(大原雄介著『SamsungがNVIDIAの7nm EUVを失注/5nmレースの行方』、2020年6月10日)。

 このように、EUVに関してTSMCとサムスン電子の明暗が分かれてしまったが、その差は何に起因するものなのだろうか。

TSMCはどのような準備を経てEUVの量産適用を実現したか

 新しい製造装置を使いこなすには、相当の時間がかかる。特に、世界で最も精密な製造装置である露光装置を使って半導体の量産に漕ぎつけるには、バグ出しにとてつもない時間がかかる。

 例えば、筆者が現役の半導体技術者だった1990年代初旬に、水銀ランプのi線を使った露光装置から、KrFエキシマレーザーを光源とする露光装置へ切り替える際には、5~6年の歳月を要したと記憶している(図2)。それほど、新しいシステムを使いこなすには時間がかかるということである。

半導体微細化競争のカギ握るEUV、サムスン電子がTSMCに勝てそうもない理由の画像3

 そして、KrFからArFドライおよびArF液浸を経て、2019年にEUVの時代が到来した。この最先端露光装置EUVを使いこなすために、TSMCはどのような準備を行ったのか。TSMCには、EUVの量産適用の準備に5~6年もかける余裕はない。では、TSMCはどうしたのか。

 複数の関係者の情報を総合すると、TSMCは18年に7~8台のEUVに毎月6~8万枚のウエハを投入してバグ出しを行い、量産適用のトレーニングを実施した模様である。毎月最大8万枚とすると、TSMCは1年間で100万枚弱のウエハをEUVに投入し、これらをすべて廃棄処分にしたことになる。このような膨大な準備を基にして、19年にやっと孔だけにEUVを適用した7nm+プロセスで、ファーウェイのスマホ向けの最先端プロセッサを製造することができたのである。

サムスン電子のEUVの状況

 量産適用には膨大な時間と膨大なウエハが必要となるEUVについて、サムスン電子は、どのような状況なのだろうか。サムスン電子は18年、ファンドリーの拠点となっている華城(ファソン)半導体工場に8台のEUVを導入した

 しかし、ファンドリーの規模でみると、12インチウエハ換算で、TSMCが月産120万枚以上あるのに対して、サムスン電子は(正確にはわからないが)30万枚程度しかないと思われる。そして、この程度の規模で、いきなりEUVを適用したら、ロジック半導体が全滅する可能性が高い。

 そこで、サムスン電子はEUVのトレーニングを行うために、巨大なDRAM量産工場を借りていると複数の関係者から聞いている。サムスン電子は月産約50万枚の巨大なDRAMラインを持っている。そのうち、月産3000枚~最大1万枚をEUVの練習用に間借りしているという。

 サムスン電子が最先端のDRAMにEUVを適用しているという複数の報道があり、サムスン電子自身も2020年5月20日のニュースリリースで、「EUVで製造した第4世代の10nmクラスDRAMの出荷個数が100万個に達した」と発表している。

 しかし、これを真に受けるわけにはいかない。現在、DRAMは12インチウエハ1枚に1500個くらい同時に製造される。したがって、そのウエハ枚数は100万個÷1500個/枚=667枚となる。歩留り80%と仮定すると、その枚数は、100万個÷(1500個/枚×80%)=833枚になる。つまり、100万個のDRAMは、月産約50万枚もの巨大なDRAMラインで、千枚にも満たない規模なのである。割合にしてたったの0.17%しかない。したがって、サムスン電子が「EUVを使って製造したDRAMを出荷した」ことは間違ってはいないが、業界の常識に照らし合わせると、「EUVをDRAMの量産に適用した」とはとてもいえない。

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