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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

半導体微細化競争のカギ握るEUV、サムスン電子がTSMCに勝てそうもない理由

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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 この状況は、「サムスン電子は、ロジック半導体にEUVを量産適用したいが、その練習場所が確保できないので巨大なDRAMラインをちょっと間借りした結果、たまたま100万個ほど動作するDRAMができてしまった」と見るべきであろう。TSMCと比較すると、お寒い限りの話である。

EUVの台数で大差がつきつつある

 ここまで説明したように、EUVを使いこなす成熟度において、TSMCとサムスン電子には雲泥の差がある。しかしそれでもなお、サムスン電子は2030年までにファンドリー分野でTSMCに追いつくという目標を掲げ、実行しようと努力している。そのため、ファンドリーの拠点の華城(ファソン)ではなく、メモリの拠点の平沢 (ピョンテク)にEUV専用棟を建設し、2025年までに100台規模のEUVを導入することを目指しているという。

 ところが、その計画が暗礁に乗り上げている。その理由は、ASMLのEUV製造キャパシティが、半導体メーカーの発注台数にまるで追いつかないからである(図3)。

半導体微細化競争のカギ握るEUV、サムスン電子がTSMCに勝てそうもない理由の画像4

 世界で唯一EUVを製造することがきるASMLは、16年に5台、17年に10台、18年に18台、19年に26台のEUVを出荷し、20年は36台の出荷を見込んでいる。ところが、受注残が次第に膨れ上がり、20年第2四半期時点で56台に達した模様である。

 そして筆者の予想では、20年にASMLが出荷する36台のEUVは、そのほとんどがTSMCに導入されると見ている。もし、サムスン電子に導入されるEUVがあったとしても1~2台程度かもしれない(図4)。その結果、20年末時点で各社のEUV累積保有台数は、TSMCが61台、サムスン電子が多くても10台ではないかと推測している。

半導体微細化競争のカギ握るEUV、サムスン電子がTSMCに勝てそうもない理由の画像5

 その後も、TSMCがEUVを毎年20~30台程度導入し、25年末には約185台以上を保有すると予測している(注)。一方、サムスン電子も25年末に約100台のEUVの導入を目指しているが、ASMLにおけるEUVの製造能力を考えると、相当難しいと思われる。

(注)原稿執筆後に行った調査により、2025年末にTSMCが保有しているEUV台数は185台よりはるかに多いことが判明した。

今後の展望

 このように、サムスン電子は、EUVを使いこなすこともできていない上に、今のままでは台数も確保できない。手を拱いていれば、TSMCとの差は年々拡大していくだろう。この危機的状況を打開するために、冒頭のBusiness Koreaの記事にあるように、サムスン電子の実質的トップである李副会長が、ASMLのCEOとCTOに直談判に行ったのではないか。その内容は、「サムスン電子にもっとたくさんEUVを供給してほしい」ということと、「サムスン電子に導入したEUVの量産適用に協力してほしい」という懇願ではないか。

 しかし、ASMLにとって最重要顧客はTSMCである。18年の1年間を費やして最大約100万枚ものウエハを投入してバグ出しを行い、それをASMLにフィードバックしてEUVの改善・改良を行って、本当に7nm+や5nmで半導体を大量生産している。今後も3nmや2nmの量産が待っている。アップル、AMD、Qualcomm、NVIDIA、もしかしたらインテルまでもが、TSMCの最先端プロセスを当てにしている。ASMLのEUVはTSMCの最先端プロセスに間違いなく適用され、進化していくのである。

 サムスン電子のトップが電撃訪問したからといって、ASMLがホイホイとTSMCを蔑ろにしてサムスン電子になびくとは思えない。といっても、この世界では、いつ、何が起きるかわからない。今後のTSMC、サムスン電子、そしてASMLのEUVの動向に注目しよう。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

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