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片田珠美「精神科女医のたわごと」

映画『鬼滅の刃』空前の大ヒットを生んだ、現代日本人の精神構造と不安…社会現象の謎を解く

文=片田珠美/精神科医
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劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編公式サイト」より

 アニメ映画『鬼滅の刃/無限列車編』(東宝)が大ヒットしており、社会現象にまでなっている。この作品は、家族を鬼に殺された主人公の少年剣士、竈門炭治郎が、鬼にされてしまった妹の禰豆子を人間に戻すために鬼と戦う物語であり、厳しい修行を重ねて成長する姿が描かれている。だから、復讐物語としても、成長物語としても、家族愛や友情の物語としても楽しむことができ、幅広い年齢層に受け入れられたのだろう。また、ストーリー展開もキャラクター構成も素晴らしく、映像も美しいので、人気があるのは当然だと思う。

 精神科医の視点から眺めると、人気の下地として、鬼がわれわれにとってなじみ深い存在であり、日本人の精神構造に深く根をおろしていたことが大きいように見える。桃太郎をはじめとして鬼伝説は各地に残っているし、鬼を祀った神社もある。

 それでは、鬼とは何か? 鬼とは、何よりも不気味なものだ。われわれが不気味と感じるのは、相手が次の3つの特徴を併せ持っているからだろう。

1) 正体不明

2) 自分に害を加えようという邪悪な意図を持っているように感じられる

3)その意図が特別な力によって実現されるように感じられる

 夜中に出没して人を食べ、人間社会を破壊し、子女や財宝を奪い取る存在と昔から信じられてきた鬼は、正体不明で、邪悪な意図を持っているうえ、人間よりも強靱な力を持っているように見えるからこそ、不気味なのだ。

 現代でも、無慈悲で残虐な人を「鬼上司」や「鬼ババ」などと呼ぶことがあるが、こうした言葉から連想されるのも、不気味さである。不気味なものは、正体不明であるがゆえに、不安と恐怖を一層かき立てる。だからこそ怖いわけで、太平洋戦争中に敵国を「鬼畜米英」と呼んだのも、実は怖かったからではないか。

鬼は「人間の分身」

 見逃せないのは、不気味で怖い鬼がもともとは人間だったということである。『鬼滅の刃』に登場する鬼もみな以前は人間だったのに、何らかの事情で鬼になってしまったにすぎない。主人公の炭治郎の妹を鬼に変えた鬼舞辻無惨にしても、平安時代に医者の治療が原因で鬼になり、その後自分の血を相手に与えて鬼に変え、仲間を増やしてきた。したがって、「鬼とは人間の分身である」(『鬼と日本人』)ともいえる。

 これは重要なポイントだと思う。鬼は「人間の否定形、つまり反社会的・反道徳的人間として造形されたもの」(同書)なのだ。だから、人間としてやってはいけないとされていることをすると、その人は人間ではなく、鬼とみなされるようになる。