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藤和彦「日本と世界の先を読む」

日本、コロナでの死亡率は欧米の数百分の1…積極的な経済活動が重要、ファクターX健在

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
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「Getty Images」より

 欧州で新型コロナウイルスの感染者が急増し、フランスやドイツなどで都市封鎖(ロックダウン)の再実施が決定された。米国でも中西部を中心に感染拡大が続いており、欧米では「第2波」が襲来したとされている。

 日本でも感染者数が再び増加傾向にあり、メディアは「欧米の動向は『対岸の火事』と受けとめてよいのか」と警鐘を鳴らし始めている。「第1波」の時も同様だった。欧米での死者数が急増する状況をメディアが煽ったことで、「社会的同調圧力」が高い日本では国民が必要以上に萎縮してしまったが、また同じ失敗を繰り返すことになってしまうのではないかと筆者は心配している。

 気になるのは日本の経済活動の再開スピードの遅さである。日本の生産水準は、今年1月以降の新型コロナのパンデミックによる下落分に対し、8月末時点で5割回復、10月末時点でも8割回復にとどまっている。日本の在庫指数は急落しており、増産できない状況ではないにもかかわらず、である。

 一方、世界の生産水準は、8月末までにすでに9割回復している。日本の生産水準は、世界に比べて2カ月以上遅れているのである。世界では再び感染拡大が起きているが、海外メディアの論調は、新型コロナとの「闘い」「克服」が主題となりつつある。コロナ禍の下でも経済や生活を正常化させることができるスキルが求められているのに対し、日本では現在の苦境を打破しようとする気概が見られない。このような状況について「日本の経営者は『今はまだ異常事態であり、本格的に活動水準を戻すのはコロナ収束の目途が立ってからでいいだろう』と考えているのではないか」との指摘がある(10月28日付毎日新聞×週刊エコノミストオンライン)。

 新型コロナのパンデミック被害は、インターネットをはじめとする「情報」の暴走による「インフォメデミック(噂やデマなど根拠のない情報が広範囲に拡散し、社会が混乱すること)」で引き起こされている要素が強いことから、今回のコラムでは新型コロナをめぐる現状についておさらいをしてみたいと思う。

交差免疫

 まず第一に指摘したいのは、日本での人口当たりの死亡率は欧米の数百分の1のままで推移していることである。山中伸弥京都大学教授が命名した「ファクターX」は健在なのである。筆者はファクターXについて次のように考えている。

 人間の体の中にウイルスなどの病原体が侵入すると、体内でさまざまな白血球が働き、Bリンパ球で「抗体」がつくられて病原体を排除する。これが「液性免疫」と呼ばれるものであるが、これ以外にもウイルスに感染した細胞を直接攻撃する「細胞性免疫」もある。Bリンパ球でつくられる抗体の寿命が短いことがわかり、ワクチンの有効性が疑問視されているが、新型コロナを撃退する際に重要な役割を演じているのは、Tリンパ球による細胞性免疫だということがわかってきている。

 さらに「交差免疫」という現象も注目を集めつつある。ヒトはウイルスに感染すると、リンパ球がそのウイルスの特徴を記憶する。次に類似のウイルスにさらされると、速やかに液性免疫や細胞性免疫が再活性化されてウイルスを撃退するのである。これにより、類似のウイルスにかかりにくくなり、仮にかかったとしても軽症で済む。このような免疫反応を「交差免疫」と呼ぶが、新型コロナウイルスでも同様の現象が起きている。抗体が消えたとしても心配する必要はないのである。

 これまでのコロナウイルスの流行は、東アジア地域に限られてきた。最初のコロナウイルスは1960年代に発見されている。長期間にわたりコロナウイルスと共存してきた東アジア地域では、新型コロナに対する交差免疫を有する人の割合が多いことから、死者数が抑えられてきたというわけである。

 東アジア地域以外の人々にとっては、新型コロナは100年前のスペイン風邪(推定5000万人が死亡)と同様非常に危険なものである可能性が高い。米国と中国のチームは「新型コロナの致死率はスペイン風邪よりも高い」としている。

「新型コロナウイルスの感染拡大は今後1年以上続く」との見方が出ているが、日本をはじめ東アジア地域の人々にとっては、新型コロナは「少し感染力の強い風邪」であり、基礎疾患(糖尿病、高血圧、腎臓病、がんなど)を抱える人や高齢者を重点的にケアするという対策で十分である。

ウイルス干渉

 冬にかけて新型コロナと季節性インフルエンザが同時流行するという、いわゆる「ツインデミック」が問題視されているが、杞憂に終わる可能性が高いだろう。「風邪とインフルエンザは同時にかからない」といわれているように、同時期に複数のウイルスが流行する場合、先に感染したウイルスにより後から来たウイルスの感染が抑制される現象(ウイルス干渉)が知られている。手洗い、マスク、うがいなどの対策は、インフルエンザの感染防止にも有効である。

 新型コロナによる重症化や死亡の主因は、人間の免役機能が過剰反応して生じるサイトカインストームだが、サイトカインストームの発生を未然に防ぐ効果がある「アクテムラ」は年内に薬事承認される可能性がある。

 新型コロナの認識は残念ながら「凶暴な殺人ウイルス」のままだが、日本人にとってはそれほど恐れる必要はないウイルスなのである。「正しく恐れる」から「必要以上に恐れない」とマインドを切り替え、官民が一体となって積極的に経済活動を再開させていくことが何より重要ではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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