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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

豪雨被害急増、火災保険・水災補償が不要な地域などない?天国と地獄を分ける基礎知識

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
豪雨被害急増、火災保険・水災補償が不要な地域などない?天国と地獄を分ける基礎知識の画像1
「Getty Images」より

 近年、集中豪雨による被害が増えているが、住宅ローンが残ったマイホームが水害に遭い、建て直しをした際の“住宅の二重ローン”問題が深刻化しつつある。こうしたことから、火災保険を見直す人が増えているが、後悔しないための火災保険選びのポイントや注意点について、SBI損害保険株式会社代表取締役社長の五十嵐正明氏に話を聞いた(以下、敬称略)。

――今や集中豪雨はどこで起こっても不思議ではありません。想定される水害リスクには、どのようなものがあるでしょうか。

五十嵐 具体例を紹介しますと、集中豪雨発生時の河川決壊により建物が流されたり、集中豪雨による土砂崩れで、家のなかに土砂が流れ込み被害に遭ったり、などですね。こうしたことから、建物や家財が被害に遭うケースが想定されます。

――火災保険料を安くする裏技として、ハザードマップで水害リスクの可能性が低い地域は水災補償を外すといった報道が目につくようになってきました。しかし近頃では、豪雨などで急激に水量が増加し、マンホールの排水が追いつかず、行き場を失った下水などが溢れ出す“都市型洪水”の被害も発生しています。私見ながら近くに川や山がなくても、水害リスクはけっして低くないと考えています。

五十嵐 水災補償を付帯するかどうかの判断基準として、ハザードマップはある程度有効とは考えます。しかし、最新のハザードマップ作成基準に準じたハザードマップが作成されていない自治体が多数存在しているのです。近年、想定を超える大雨が各地で頻発していることや、ゲリラ豪雨などが発生した際には想定外の損害を被る可能性もあることを考えると、ハザードマップだけで判断するのではなく、周囲の地形等を十分に観察したうえで必要性を検討するべきだと思います。日本においては水災補償を外してもいい場所は、それほど多くないのではないでしょうか。

――ハザードマップで水害の心配はなかったにもかかわらず、実際、被害に遭った住宅は少なくありません。高層マンションに水災補償は不要でしょうか。

五十嵐 マンションの高層階は、さすがにそれほど心配はないでしょうが、2階でも浸水した事故報告は上がってきています。台風の豪雨でタワーマンションの地下に集約されていた電気系統がやられ、エレベーターやトイレやお風呂などが使えなかった例もあります。こうした場合は、個人の水災補償ではなく、マンション管理組合が加入している水災補償が対象になるかと思います。

津波による浸水被害は補償対象外のケースも

――豪雨被害を見て、慌てて水災補償をつけようと思っても、制限があると聞きました。

五十嵐 水災補償を外して契約した場合、途中で付帯することは保険数理の関係などから制限されるケースが多いのが現実です。契約内容によっても違うため、一概に言えませんが、一度解約されて新たに補償をセットしていただくか、当社の商品に限っていえば始期応当日(毎年の保険始期日と同じ月日の日)に間に合うように追加補償の内容を変更しなければなりません。保険料の兼ね合いは無視することはできませんが、契約時にはリスクを想定しながら十分注意してご加入いただきたいと思います。

――どのような場合に保険金が支払われるのかも把握しておきたいです。

五十嵐 水害に対して幅広くカバーできる水災補償ですが、たとえば地震、噴火による津波を原因とする浸水被害は補償されないなど、補償の対象外となるケースもあります。当社の水災補償の支払い基準は、その保険価格の30%以上の損害が生じた場合、または建物が床上浸水または地盤面より45㎝を超える浸水を被った結果、損害が生じた場合に限ります。これは各社同様の基準ではないかと思っています。

――他に支払い対象にならない事例を教えてください。

五十嵐 地震に起因する津波や土砂崩れで住宅や家財の一部が破損した場合は、地震保険で備えられますので、対象外です。また、雹(ひょう)や雪で住宅の一部に被害が発生した場合は、「風災・雹(ひょう)災・雪災」で補償されます。

――「水濡れ」と「水災」の違いがわからないという方も多いものです。水濡れはどんな場合を想定すればいいですか。

五十嵐 保険的には、マンションの上階で風呂・洗濯排水が漏れ、自宅壁面や家具が損害を受けた場合は、水災ではなく水濡れで補償されます。水濡れ事故は日常生活で起こりやすいケースです。マンションにお住まいの場合、水災よりむしろ水濡れ補償の必要性が高いかもしれません。同様に、単に住宅が老朽化して雨漏りするようになった場合も水災補償の対象外となります。水災の補償範囲を知っておくこともリスクへの備えのひとつといえるのではないでしょうか。ともかく、契約時にかかわらず、お分かりにならない場合は、取扱保険会社や代理店にお問い合わせをいただきたいと思います。

疑問点は保険会社等に必ず確認すべき

――ネット損保は保険料が安い分、保険会社が保険金の支払いを渋るのではないかという疑問を持つお客様もいらっしゃいます。

五十嵐 保険各社は事故が発生したら、専門知識を有する鑑定会社などが中立的な立場から査定を行なったうえで、約款に記載の支払い基準等に基づいて、保険金を適切にお支払いします。この部分は代理店系損保もネット損保も同じであり、当社をはじめネット損保が支払いを渋るようなことは決してありません。

――貴社は、HDI-Japanが発表した2019年公開格付け調査「HDI格付けベンチマーク」において、問合せ窓口格付け、Webサポート格付けの2部門で最高ランクの三つ星を獲得されたのですね。素晴らしいと思うだけに、お客様からすれば、簡単なことを聞くのは、勇気がいるというか、ためらいがあります。

五十嵐 とんでもないです。数年前までは、ネット損保の契約のポイントは安さでした。でも今は、安いだけでなく、内容をしっかり吟味するというように加入の主軸が変わってきています。そのために、些細なことでも問い合わせてこられるお客様が多いのです。手前味噌になりますが、小さなことにも誠心誠意ご対応させていただいたからこそ、評価していただけたのではないかと受け止めています。

――契約時の提案や支払いの条件に関する質問も、相談に乗っていただけるものですか。

五十嵐 もちろんです。最終的には契約者のご判断になりますが、ご自身が納得するまで水災補償の説明や家財の保険金額の目安なども含めて、分からないこと、疑問点は、どんなに些細なことでも、お気軽にお問い合わせいただきたいと思います。

火災保険、定期的な見直しが重要

 気象庁は災害に対する危機感を伝えるために、2019年から「特別警報」に5段階に分けた「警戒レベル」を導入した。災害への心構えを高める必要がある警戒レベル1から、なんらかの災害がすでに発生し、命を守る最善の行動を呼びかける警戒レベル5まで、5段階に区分している。現時点では警戒レベル5を発令した自治体はまだないが、警戒レベル5を想定した避難訓練を開始した自治体もある。

 全国各地で集中豪雨が起こるようになり、警戒レベル5の豪雨が発生しない可能性は、もはやどこにもないといっても過言ではない。災害が発生した時には、特別警報が発生しないからといって安心せず、気象情報を活用して、命を守るため、早め早めの行動をとることが不可欠だ。同時に火災保険の見直しも定期的に行うことが求められる時代となったといえる。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

●五十嵐正明氏プロフィール

58歳。東京都出身。立教大学卒。アリコジャパン、ING生命、三井住友海上、あいおい損保に勤務ののち独立。ブロードマインド少額短期保険(現アスモ少額短期保険株式会社)を創業。2011年、少額短期保険協会専務理事に選任。2015年、日本少短(現SBI日本少短)に参画。翌年、代表取締役に就任。その後、2017年SBIリスタ少短取締役(兼任)、2017 年SBI少短保険HD取締役(兼任)を経て、2019年SBI損保代表取締役に就任。2020年よりSBIインシュアランスグループ取締役を兼任。

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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