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小笠原泰「日本は大丈夫か?」

米国・白人に衝撃、人口構成比で50%以下に…“隠れトランプ支持者”が多い本当の理由

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授
米国・白人に衝撃、人口構成比で50%以下に…“隠れトランプ支持者”が多い本当の理由の画像1
サイト「Donald J. Trump for President」より

 3日に投票日を迎えたアメリカの大統領選挙であるが、マスコミなどの世論調査報道を信じれば、バイデン候補が優位に立っていると見える。期日前投票が9000万票を超え、郵便投票が増えた影響もあり、最終投票率は1908年以来の65%に達すると予想されている。投票率が高ければ民主党候補が優位に立つといわれているので、バイデン候補優位の報道に信憑性はあるだろう。

 しかし、その一方で、隠れトランプ支持者も多いのでトランプ氏が勝利すると予想する見方も多い。前回の大統領選では予想に反して民主党のクリントン氏を破って当選したトランプ氏であるが、今回もその再来はあるのだろうか。

 前回の大統領選では、見捨てられたラストベルトのプア・ホワイト(衰退産業で働くか失業中の低学歴・低スキルの中高年白人労働者)や、人種差別とミソジニー(女性嫌悪・蔑視)の人々の支持によってトランプ氏は当選したといわれているが、今回はどうか。

 コロナ対応も含めて暴走し、発言をいっそう過激化させ社会分断を煽るトランプ氏、“Build Back Better”(より良い復興)というスローガンを示して分断前のノーマル(通常状態)に戻るというスタンスで民主党を一応まとめたバイデン氏という、ともに70代半ばの白人男性同士の対決である。テレビ討論も含めて、これまでの選挙キャンペーンを見るに、トランプ氏のこの4年間の成果を問うという雰囲気の選挙ではないように見える。むしろ、社会の分断の方向をとるか、団結・連帯の方向をとるかを選択する選挙のように見える。

 しかし、内実はどうか。トランプ氏のスローガンは、前回選挙の“Make America Great Again”を受けて、今回は“Keep America Great”である。この4年間でアメリカを再び偉大にしたとは考えられないが、トランプ氏は復活した偉大さの維持を掲げている。しかし、その偉大さとは何か。筆者は、トランプ氏が復活させたいのは、アメリカの偉大さではなく白人の偉大さではないかと考えている。つまり、今回の選挙は“Make WHITE Great Again”が選挙の争点ではないか。

人種構成の変化

 なぜ今回の選挙では低位中産階級以下の白人ではなく、白人全体の偉大さを掲げるのか。それは、近々訪れる人口構成における白人の少数派への転落への警戒である。米国国勢調査局の推計では、2060年までに米国の人口は4億1680万人となるとされている。人口は増加するがその増加は緩やかであり、2030年代の前半には、移民の増加数が国内出生数を上回ると予想され、移民国家の様相をいっそう強める。その過程で着目されるのは、急激な高齢化と人種構成の変化である。

 まず高齢化では、2050年代の後半に、65歳以上人口が18歳以下人口よりも多くなるとされ、従属人口指数<(18歳以下人口+65歳以上人口)/19歳~64歳人口>を見ると、2020年の66%から2030年以降には75%前後で安定するが、その増加の主因は65歳以上の高齢者の増加である。その人口構成比は、2010年は21%、2020年は28%、2030年は35%、そして、2060年には39%となると予測されている。一方、18歳以下は2010年の38%から2060年の37%と概ね安定している。

 人種別の2012年~2060年の平均年齢の変化をみると、白人(米国の統計では「ノンヒスパニックホワイト」)の平均年齢は42歳から47歳へ、ヒスパニックの平均は27歳から34歳へ、全体平均は37歳から41歳となる。国民全員が老いていくが、白人の平均年齢とヒスパニックの平均の年齢の差はかなり大きく、「年老いる白人と若いヒスパニック」という構図が浮かび上がる。「若いヒスパニックに支えられる白人高齢者」という姿である。

 次に人種構成を見てみると、2040年代の半ばには、白人の人口は50%を割ると予測されている。つまり、人口的に現在のマイノリティ(白人以外の少数派)が半数以上を占める多数派になるということである。アメリカは白人国家であることを疑わない現在のアメリカ人にとっては大きな変化、いや衝撃であろう。これをトランプ氏は阻止しようとして、反移民政策を執拗に繰り広げたわけである。

 より細かくみてみると、2014年から2060年の間に、白人の比率は62.2%から43.6%に、ヒスパニックの比率が17.4%から28.6%となり、ヒスパニックの増加が目立つ。18歳以下の人種別の人口で見てみると、白人の比率は52.0%から35.6%、ヒスパニックの比率が24.4%から33.5%となり、白人と拮抗する。

 ちなみに、現時点で米国にいる不法移民の数は1100万人ともいわれており、そのほとんどがヒスパニックであることを考慮すると、ここにあげた白人とヒスパニックの数値は、白人の数値が下がり、ヒスパニックの数値が高くなるといえる。国の中心は年老いる白人から若いヒスパニックへと転換していくことを意味すると言えよう。

世代間の軋轢

 こうしたアメリカ社会が直面する大きな社会問題のひとつは、日本も直面している、現役世代が高齢者を支えることから生じる世代間の軋轢である。社会が高齢化するなかで、豊かとはいいがたいヒスパニックの若者が白人高齢者を支えるという構図は、人種問題をはらむがゆえに厳しい世代間の軋轢を引き起こす可能性がある。この状況を恐れる白人が相当数いることは容易に想像でき、これが隠れトランプ支持者なのではないか。

 いずれにしても、そこに至る過程でアメリカ社会が通るであろう軋轢は、弱者・貧者の増加による社会主義的政策の要望への高まりと、優位な地位を喪失することへの反発がもたらす白人優位主義の台頭ではないであろうか。それが今回の大統領選の本当の争点なのではないであろうか。後者は“Make WHITE Great Again”が底流にある。この意味で、今回の選挙は「トランプであるか、トランプではないか」をとるかであろう。

 今回の選挙は、どちらが勝っても混乱は必至だとみられているが、コロナを政治利用して権力行使の強化を目論んだ国家が、結果的にそのパワーを相対的に減少させる先行例になるのかもしれない。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『なんとなく日本人』、共著に『日本型イノベーションのすすめ』『2050 老人大国の現実』など。
明治大学 小笠原 泰 OGASAWARA Yasushi

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