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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックオーケストラ、人数が多いほど“走る”?その意外なメカニズムが判明

文=篠崎靖男/指揮者
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 ドラムやベースセクションよって一定のテンポを決められているポップ音楽とは違って、クラシックはテンポを自由に変えることができる音楽です。そもそも、テンポ自体を数字で書かなかった作曲家がほとんどで、「遅く」「速く」「歩くように」など抽象的な言葉の指示によって、演奏家にテンポ決定が委ねられています。

 20世紀後半にもなると、東京大学での実験にも使用されたメトロノームのテンポ数字を書き込むのが当たり前になりましたが、メトロノームが発明されたのはベートーヴェンが活躍していた19世紀に入ってからなので、バッハやモーツァルトなどはメトロノームすら知らなかったのです。その後の多くの作曲家も、まだまだ抽象的な言葉を書いて、演奏家の想像にお任せするような状況が続きました。

 しかし、かえってそのほうが良いこともあります。メトロノームの数字が書かれていると、それが気になってしまって、クラシック音楽ならではのテンポ変化の妨げになることもあります。皆様も、三三七拍子で盛り上げっているときに、横でメトロノームが同じテンポを鳴らしていたら、きっと興ざめするでしょう。

 そんななか、困らされるのはブラームスです。『ハンガリー舞曲第5番』などで有名なドイツを代表する作曲家ですが、とにかく性格が優柔不断です。生涯で何度も結婚できるチャンスがあったにもかかわらず、結局は言い出せず、相手はその気なのに、むしろ陰気に去っていくような人物で、テンポの指示も優柔不断です。

 たとえば、『交響曲第2番』の第1楽章は「速く、でもそれほどでなく」、第2楽章は「遅く、でもそれほどでなく」です。どうしたらいいのか、混乱してしまいます。そのあとの第3楽章などは「アレグレット、アンダンティーノくらいで」とあり、その直後に「すごく速く、でもそれほどでもなく」と書かれていて、あきれてしまいます。

 もしブラームスが結婚できたとしても、奥さんは大変だったでしょう。スープの温度をたずねても、「熱いのがいいなあ。でもあまり熱すぎないで」とか、「少し熱めで、でもぬるめにして」などと言われるわけですから。

 そんなブラームスですが、曲のクライマックスでは、彼の生まれ故郷であるドイツ魂が存分に発揮され、猪突猛進の音楽となり、最後にはオーケストラも観客もあっと言わせるのです。優柔不断に見せかけてやる時はやる。普段はぶつぶつ言いながら、それでも気が付けば三冠王を取っていた故野村克也さんタイプ。それがブラームスです。

 ちなみに、モーツァルトはオペラ、交響曲、器楽、歌曲と、なんでもマルチに最高のヒットを生み出すイチロータイプ。ベートーヴェンはストイックに自分を追い詰めながらも、毎回、感動的な大ホームランを打つ王貞治といえるでしょうか。
(文=篠崎靖男/指揮者)

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●篠﨑靖男
 桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
 2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
 国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
 現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。ジャパン・アーツ所属
オフィシャル・ホームページ http://www.yasuoshinozaki.com/

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