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成馬零一「ドラマ探訪記」

有村架純『姉ちゃんの恋人』に“ハラハラ”する理由…岡田惠和ドラマの“裏テーマ”とは

文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家
有村架純『姉ちゃんの恋人』にハラハラする理由…岡田惠和ドラマの裏テーマとはの画像1
火9ドラマ『姉ちゃんの恋人』| 関西テレビ放送 カンテレ」より

 火曜夜9時からフジテレビ系で放送されている連続ドラマ『姉ちゃんの恋人』は、ホームセンターで働く女性を主人公にした恋愛ドラマだ。

 高校3年のときに両親を事故で亡くした安達桃子(有村架純)は、3人の弟を養うために大学進学をあきらめてホームセンターに就職した。それから9年間、桃子は一家の大黒柱として働いていたが、クリスマスに向けた社内のプロジェクトで配送部の吉岡真人(林遣都)と知り合い、やがて恋に落ちる。しかし、吉岡はつらい過去を抱えており、今も苦しんでいた。

 主演は有村架純、脚本は岡田惠和。有村が岡田作品に出演するのは映画も含めて6作目。主役作は2017年の連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『ひよっこ』(NHK)、2019年にWOWOWで放送された連続ドラマ『そして、生きる』に続いて3作目となる。

 岡田惠和は1990年代から活躍する脚本家で、『ビーチボーイズ』(フジテレビ系)や、朝ドラの『ちゅらさん』や『おひさま』など、さまざまな作品を手がけている。作家としての大きな転機となったのは、近作ではやはり『ひよっこ』だろう。

 東京オリンピックを控えた1964年から始まる『ひよっこ』は、茨城出身の谷田部みね子(有村架純)が集団就職で東京の工場で働きながら、行方不明の父を探す物語だ。

 出てくる人々は基本的に善人で、楽しいやりとりが延々と展開される。ダラダラと続く中身のない会話は、妙に心地良く、その幸せなトーンこそが最大の魅力だろう。

 そんな不自然なくらい幸せなやりとりの中に、時々、戦争の記憶を背負った人々の暗い過去が見える瞬間が描かれる。99%の幸せと1%の不安で『ひよっこ』は構成されており、楽しく優しい物語に見えても、その背後には死と暴力の影が見え隠れする。それは『姉ちゃんの恋人』も同様だ。

岡田作品が描く“暴力の怖さ”

 桃子は高校時代に事故で両親を亡くしており、3人の弟を育てるために健気に働いてきた。恋人がいたこともあったらしいが、桃子が弟たちのことを優先するために別れてしまったらしい。一方、吉岡は過去に恋人を守るために暴行傷害事件を起こして逮捕され、2年間服役していたことが第4話で明らかになる。

 男2人に襲われそうになった恋人を守るために抵抗し、それが過剰暴行となってしまう場面は、幸せなやりとりが延々と続いていた優しい物語の中に、突然、裂け目が入ったかのようなショッキングなものだった。吉岡が守った恋人が「男には襲われていない、そんなことはなかった」と、吉岡を裏切るような発言をしたことも、残酷さに拍車をかけている。

 いつも優しい人が怒ったときほど恐ろしいものだが、それこそが岡田作品に登場する暴力の恐さだ。だから、どれだけ楽しく優しい世界を書いていても、岡田作品には常に不穏な空気が漂っている。もちろん、これは裏テーマみたいなものであるため、大半の視聴者は悪い人が一切登場しない優しい世界を書く脚本家だと、岡田のことを思っている。しかし、彼の作品に慣れ親しんでいる人ほど、幸せな世界に裂け目をつくる作家だとわかっているので、毎回、ドラマを観てハラハラしている。

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