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藤和彦「日本と世界の先を読む」

新型コロナ、トイレの「糞口感染」対策が盲点…ウイルス含む糞便、手指を介して口に

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
新型コロナ、トイレの「糞口感染」対策が盲点…ウイルス含む糞便、手指を介して口にの画像1
「Getty Images」より

 日本でも新型コロナウイルス感染者が急増している。11月中旬以降、連日2000人以上の感染者が発生し、累計の死者数も2000人を超えた。医療現場の崩壊を恐れる日本医師会の中川俊男会長は11月18日の会見のなかで、感染者増と「Go To キャンペーン」との関連について、エビデンス(証拠)はなかなかはっきりしないが、きっかけになったことは間違いない」と述べた上で、感染拡大地域への移動自粛を国民に要請した。

 コロナ禍でもGo Toを続けようとしていた菅義偉首相は、「マスク会食」を推奨するなど国民に対して感染防止策のいっそうの徹底を呼びかけていたが、キャンペーン自体の見直しに追い込まれつつある。

 現在の感染拡大は「第3波襲来」とされているが、いわゆる「第3波」の特徴は、家庭内感染の比率が高く、高齢者を含む全世代に感染が広がっていることである。地域別に見ると、東京都以上に大阪府や北海道などでの感染拡大が激しい。特に感染拡大が顕著である大阪府は、全国的に見て「3世代同居」の比率が高いといわれており、キャンペーンを利用して旅行や外食の機会が多い若者などが新型コロナウイルスに感染して家庭に持ち帰り、同居する高齢者に感染させているとの指摘もある。

 このような懸念から、「家庭内で一緒に食事をする際にも感染防止策を講じる必要がある」といわれはじめているが、はたしてこれだけで万全だろうか。

トイレ周辺で新型コロナウイルスが多数検出

 筆者は「現在の対策について重大な『漏れ』があるのではないか」と懸念している。それは「トイレでの感染リスク」が軽視されているということである。今年2月に3711人の乗員乗客を乗せたダイヤモンドプリンセス号内で新型コロナウイルスの集団感染が発生し、合計712人の患者が確認された。国立感染症研究所は5月に「ダイヤモンドプリンセス号環境検査に関する報告」を公表したが、それによれば、感染者が使用したトイレ周辺で新型コロナウイルスが多数検出されていた。

 新型コロナウイルス感染症という病気の実態について研究が進むにつれて、症状がさほど重くない人のなかで、下痢だけが続いている場合が多いことがわかってきている。新型コロナウイルスの受容体(ウイルスの侵入口)としてACE(アンギオテンシン変換酵素)2に注目が集まっているが、最も多く存在しているのは、肺や喉ではなく、実は小腸や大腸である。小腸や大腸に新型コロナウイルスが感染すると、便と一緒にウイルスも体外に排泄されるのである。

「下水道の水をPCR検査すれば、その地域の住民を個々にPCR検査しなくても、感染状況をいち早く把握することができる」とする海外の医学誌の内容が日本でも紹介されているように、排便は咳や呼気とともにウイルスが拡散する主要なルートなのである。

 新型コロナウイルスの発生当初から「急拡大の背景に排泄物を介した『糞口感染』の可能性がある」と指摘されていた(2月21日付ニューズウィーク)。手指や食べ物などを介して、鼻や口、目からウイルスが体内に入る感染するのが「経口感染」だが、そのなかでもウイルスを含む糞便が手指に付着し、これが口などに入るルートのことは「糞口感染」と呼ばれている。

「呼吸器と大便の両方からウイルスが検出された人の場合、呼吸器からウイルスが検出された日数は最初の症状が出た日から平均17日後まで続いたのに対し、大便からは平均28日後までと呼吸器に比べて11日も長かった」との報告もある。

 ウイルスを含む便が付着する便器などに触れて感染するリスクが高いことから、政府が打ち出した対策の中には「トイレでの感染防止」の項目が入っていたが、最近政府から発せられるメッセージの中からこのことがすっかり抜け落ちてしまっている。政府の対策は変わっていないものの、「トイレの話題はお茶の間に適さない」として徐々にこの話題を避けるようになったからなのかもしれない。だが、このことでトイレ対策に関する国民の関心が下がってしまったのだとしたら大きな問題である。

トイレでの感染防止策で重要な点

 筆者は感染症対策の専門家ではないが、注意を喚起する観点から、トイレでの感染防止策で重要な点を列挙したいと思う。

(1)狭いトイレの空間では、ウイルスを含んだ排泄物からトイレットプルームと呼ばれる煙が立ち上がることから、トイレの水を流す際は、便器の蓋を閉めて流す(香港城市大学の研究によれば、トイレの水を流す際には1回当たり最大80万個のウイルスを含む飛 沫が空中に吹き上がる)。

(2)ドアのノブやレバーなどを直接触れることを避けるため、ゴム手袋を着用したり、ペーパータオルを用いる。便座やドアノブなどをこまめにアルコール消毒する。

(3)トイレを済ませたら石けんなどで十分に手を洗う。

(4)トイレにいる滞在時間を減らす(携帯電話の使用を控える)。 

 この対策は、クラスターが発生しやすい学校や病院、介護施設などでも有効だと思う。キャンペーンの制限を加えても、トイレを介して感染するルートを遮断しない限り、効果は限定的である。さらに強力な「ハンマー」が必要となれば、上向き始めた景気の腰を折ってしまい、国民生活にさらなる負担をかけてしまうことになる。

「トイレをこまめに消毒・洗浄して清潔に保つことが、感染のリスクを下げるのに効果的である」ことを、政府は改めて発信すべきではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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