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お手頃価格&安全&宅配…生協、売上急増で人気復活のワケ “非営利組織”の秘密

文=海老エリカ/A4studio
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「生協の公式サイト」より

 日本生活協同組合連合会(以下、生協)の2020年度上期(4~9月)の総供給高が、前年同期比15.7%増の2260億円に達したと発表された。

 食品や日用品をスーパーマーケットのように販売したり、自宅まで配送してくれたりするコープ商品事業が前年同期比14.0%増の1765億円、ナショナルブランド商品を中心とした日用雑貨を供給するキャロット事業が同27.5%増の210億円、衣料品や家庭用品などのカタログ事業が同17.7%増の270億円と増加傾向である。

 新型コロナウィルス感染症が拡大したことがきっかけで、生協の総供給高が増加したと考えられるが、なぜコロナ禍でむしろ右肩上がりしているのだろうか。そこで今回は、経済ジャーナリストの寺尾淳氏に話を聞いた。

安売りではない…“安心品質商品がお手頃価格”が魅力

 まず、そもそも生協とはどのような仕組みで成り立っている組合なのか。

「生協は、2019年度末で全国316の会員生協が加盟し、総組合員数・約2962万人、会員生協の総事業高・約3.5兆円を誇る日本最大の消費者組織です。そして生協の要となる組織は、それぞれが独立した法人として独自のテーマや事業を持って活動している地域生協、大学生協、職域生協などの単位生協でしょう。

 単位生協は農協や漁協と同様に協同組合法で設立が認められている協同組合で、組合員が出資して運営、利用する組織です。したがって、生協は株式会社と違って株主はいないため、利益は最終的に出資配当金というかたちで組合員に還元されることになります。営利を目的としないため、組合員はみんな平等だという精神を持って活動しているということですね」(寺尾氏)

 そんな生協が現在、ここまで多くの人々に利用されるようになった理由には何があるだろうか。

「例えばコープ商品は、手頃な価格で品質的に安心できる生活必需品を手に入れることができます。ちなみにこれは、ただ単に安売りしているという意味ではないですし、激安スーパーなどよりも価格が安いという意味とも異なります。例えば、単純に安さだけを求めるのであれば、激安スーパーのほうが安価に売っていることも多々あるでしょうが、そういったスーパーの安売り商品は、品質面の保証がされておらず、不安を感じることもあるかもしれません。ですが、生協の扱う商品は品質が保証されたうえで、手頃な価格となっています。その安心感が生協の強みといえるでしょう。

 ここまで生協が安全面に特化できるのは、商品の安全性を確かめる商品検査センターという、生協専門の研究機関が単位生協にも連合会にも存在するからです。特に食品添加物や農薬などに配慮する“食の安全”について、生協は以前から非常に力を入れており、その啓発活動も行っているため、食の安全性を気にする方にとって、コープ商品は一つの安心ブランドにもなっています」(寺尾氏)

 そんなコープ商品事業は、生協の土台を支える主力分野となっている。

「コープ商品は生鮮食料品を中心に、生協のオリジナル商品のコープブランドに力を入れています。小売業者や卸業者などが開発したブランドであるPB(プライベートブランド)としては、大手小売業のPB と同様の勢力規模に相当します。ちなみに、セブン&アイ・ホールディングスのPB であるセブンプレミアムや、イオンのPB であるトップバリュよりも前に生協のコープブランドは登場していたため、コープブランドは大手スーパーのPB の先輩格とも言えるでしょう。

 一方、PB に力を入れているコープ商品事業に対し、キャロット事業は商品の企画から製造までをメーカーが行う、ナショナルブランドを中心とした日用雑貨を売っています。キャロット事業は民間の中小スーパーと同じ流通ルートであるため、ナショナルブランドから卸業者を通して入ってきます。そのため、ナショナルブランドの場合、利幅と売上比率は小さいため、生協にとって正直苦しい事業なのではないかと考えています」(寺尾氏)

コロナが生協に与えた思わぬメリットとデメリットとは?

 ここからがいよいよ本題だ。新型コロナウィルスの感染拡大が生協に及ぼした影響について、寺尾氏はこう語る。

「私は、“幽霊組合員の復活”と“生協の良さが見直された”ということがポイントだと考えています。生協の宅配サービスの便利さと安全性の高さに注目が集まり、若い世代の新規加入も増えたとは思います。ですがおそらくそれ以上に、出資金を払って組合員になっていても、ほとんど生協のサービスを利用していなかった“幽霊組合員”の復活が大きいでしょう。

 全国の小中高に臨時休校要請が発せられた3月、緊急事態宣言により外出自粛や在宅勤務要請がかかった4月は、スーパーに行かなくても宅配してくれる生協のサービスが人々の需要と合致し、“幽霊組合員”がまた利用するようになったのでしょう。そして、いざ生協を利用してみると、ネットスーパーなどと比べて価格水準が安く、手数料もあまりかからないなど、生協の宅配は想像以上に便利でお得だと気付いた人が多かったんだと思います。実際、宅配サービスにおいては昨年よりも明らかに売上が伸びていますからね」(寺尾氏)

 また、「生協の良さが見直された」という点については、次のような事例もあるという。

「3月頃にトイレットペーパーやティッシュペーパーが、スーパーやドラッグストアの店頭で品切れするという事態が続出しましたが、“組合員ファースト”の生協は商品の確保に懸命に努力し、できる限り供給するように取り組んでいました。どうしても必要数を確保できない商品は、早い者勝ちではなく抽選形式にして販売することで、組合員の間の公平を図った単位生協もあったと聞きました。トイレットペーパーの抽選など組合員を第一に考える姿勢が、SNSなどの口コミでも広がっていって生協の信頼度上昇につながり、結果的に売上にも結びついたと考えられます」(寺尾氏)

 だが寺尾氏によれば、新型コロナが生協にとって致命的なデメリットももたらしているそうだ。

「生協の宅配サービスは、新型コロナウィルスの感染対策として首都圏の単位生協などは原則、置き配達ですが、置き配達が主流になってしまうことで、利用者と配達員が接触することがなくなり、人間同士で話をして信頼を作り上げていく、生協本来のコミュニケーションという強みを失うおそれがあります。本来であれば利用者の要望を直接聞くことで商品開発を行っていましたが、消費者の生の声をなかなか聞くことができなければ、今後、生協ならではの新しい商品を作り出すということが難しくなっていくのではないでしょうか」(寺尾氏)

 新型コロナウィルスによってデメリットも生じている生協は、アフターコロナの時代をどう乗り越えていくのだろうか。

「先ほど述べたデメリットの観点から、生協は『2030年中期ビジョン方針』にて宅配事業の再強化を最重点課題に掲げています。単位生協が連携したプロジェクトチーム『宅配事業リノベーション・タスクフォース』も発足しているようです。物流の共同化、最適化、注文チャネルや決済手段の多様化、データ活用による組合員のニーズに合った商品情報の提供、商品の受け取り方法の拡大などサービス向上を戦略的に進めているのです。生協が今後も安定した供給高を維持するためには、コロナ禍で出来上がってしまった人間同士の距離感の溝をどう埋めるかが重要になっていくでしょうね」(寺尾氏)

 コロナ禍により生協の良さが見直された反面、悪影響が出てしまっている部分があるのも事実のようだ。デメリットを解消するための動きも少しずつ見せ始めている生協の今後の動向にも注目していきたい。

(文=海老エリカ/A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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