ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 東大、推薦入試枠拡大は女子が狙い?
NEW
木村誠「20年代、大学新時代」

東京大学、推薦入試の枠拡大は女子受験生が狙い?東北大学はAO入試入学者が国立大で突出

文=木村誠/教育ジャーナリスト
東京大学、推薦入試の枠拡大は女子受験生が狙い?東北大学はAO入試入学者が国立大で突出の画像1
東京大学の安田講堂(「Wikipedia」より)

 2020年度から、大学受験におけるAO入試は総合型選抜、推薦入試は学校推薦型選抜に変わった。延期された民間英語検定試験や記述式の導入に比べ、あまり注目されなかったのは、名称が変わっただけという認識が一般的だったからだ。しかし、コロナ禍によるスタート時の混乱は、受験生にとって影響が大きい。そこで、国公立大と私立大の2回に分けて報告したい。

 以前は、推薦入試といえば、特に入学者の比率では私立大の専売特許の印象があったが、近年着実に国公立大でも増加している。より影響が大きいのは入試日程の繰り下げで、国公立大の受験プランに影響が及ぶ。特に、21年はコロナ禍で読みが難しい。

 総合型選抜は、出願開始が今までの8月から9月15日以降に、合格発表が11月以降となる。学校推薦型選抜は出願開始が今までと同じ11月1日だが、合格発表が11月以降から12月以降となった。

 この合格発表の繰り下げは受験プランに影響する。たとえば、1月中旬の新共通テストから始まる一般入試との併願である。国立大の総合型選抜や学校推薦型選抜にチャレンジして失敗しても一般入試で挽回、という作戦が日程的に厳しくなったのだ。これは、コロナが収束しても残る問題だ。

有力国公立大でも増加する推薦入試

 今までのAO入試や推薦入試は、国公立大でも年々導入校が増えている。AO入試の実施校の割合は19年で国立71%、公立34%、私立は84%、入学者の割合はそれぞれ4%、3%、12%である。公立の横浜市立大学のように、10年以上前からAO入試を導入して注目されてきた例もある。

 推薦入試は、公立大は地方自治体が設置者なので地元優先の傾向が強く、実施校は98%、入学者の25%を占める。それでも、私立大の実施校ほぼ100%、入学者40%強と比べれば低い。国立大は95%が導入しているが、入学者の割合は11%強である。

 保護者世代にとっては公平な一般入試一筋の印象が強かった有力国立大も、AO入試や推薦入試を導入し始めている。中には、共通テストを課さないケースもある。

 中でも、東北大学や筑波大学は古参組だ。東北大はAO入試の入学者が19年度で572名と、国立大ではダントツに多い。2位は弘前大学の317名だ。入学者に占める割合も23.2%と、4人に1人に達する。背景には、20年前から高校との信頼関係構築を続けてきたことがあるようだ。共通テストを課さない2期と課す3期があるが、コロナの影響もあり、今秋2期の出願状況は前年を上回る勢いだ。筑波大は昔から推薦入試の枠が大きいことで知られていたが、19年度に入学者の比率が26%を超えた。この両校は、かなり昔から取り組んでいる。

 近年では、東京大学、名古屋大学、大阪大学、神戸大学、九州大学など有力国立大で導入が増えてきた。東大は21年から推薦枠の人数を各高校2人から合計4人までに増やした。ただし、男女各3人までで、別学の学校の場合は合計3人となる。男子あるいは女子だけで4名、というのはできない。もちろん共通テストは課す。

 今までの東大受験生の傾向から、文学部系の文三以外でも女子受験生が増える可能性が高い。東大が初めて推薦入試を導入した年に、ある東北地方のローカル紙が、地元の高校生が東大の推薦入試に合格して祝賀ムードにわいている、と報じたこともある。それだけ期待も大きいのだ。

 ちなみに、19年度は募集人員100人(18年度100人)に対し、志願者173人(同185人)、最終合格者73人(同66人)で、募集人員を合格者が下回っている。そこで推薦枠を拡大したのだろうが、センター試験の得点の合格レベルが高く、これなら一般の入試でも合格できるという声が聞こえる。どうせなら推薦地域枠などを導入すればおもしろいだろう。

 京都大学は「特色入試」と言ってはいるが、ほぼ全学部が共通テストを課しており、学力を担保している。もともと、この特色入試の導入には、前期後期で複数の受験機会を設ける国立大の入試方式があったが、東大や京大など旧帝大で後期試験をなくした背景がある。

 後期試験は前期失敗組が受けるケースが多く、多くの大学で前期より募集人員が少ないので競争率は高く、大学としては選抜に手間がかかる。3月後半に合否を決めるため、時間的な制約も大きい。そこで、東大は代わりに推薦入試を導入したのだ。京大も、後期の代わりに特色入試を導入した経緯がある。その後、全国の国立大に後期廃止の波が広がり、その代用措置としてAO入試や推薦入試の導入が増えた。もちろん、今でも後期試験を採用している国立大は少なくない。

 京大は法学部の特色入試のみが後期日程の3月入試だが、他の学部の特色入試は2月中旬に試験、合格発表のスケジュールとなっている。九州大学共創学部は新設だけに、総合型選抜と学校推薦型選抜に加えて、10月入試の国際コースまである。国立大入試も多様化している。

仙台二華、小林聖心女子学院の強みとは

 今年は、コロナの影響で不安を感じる受験生が総合型選抜や学校推薦型選抜を選ぶ傾向が目立っている。しかし、さまざまなコンクールや大会が中止となり、自己紹介(推薦)書に書く実績などは古い情報が多くなってしまった。各資格や、英検などの民間英語検定なども同様だ。生徒会やクラブでの活動実績も中途半端になってしまう。

 その点では、早くから有名大のAO入試や推薦入試のノウハウがある高校が有利だろう。たとえば、旧宮城県立第二女子校が共学になった仙台二華高校はAO入試に強い。20年度は、東北大の合格者30名のうち13名(うち医学部7名)がAO入試だった。同校は、スーパーグローバルハイスクール、IBワールドスクールに認定されている。高2からの課題研究では、南アジア・メコン川流におけるフィールドワークを行うなど、まさにAO入試向けの学びとなっている。

 一方、兵庫県の小林聖心女子学院高校も、東大の推薦入試で毎年のように合格者を出している。東大は推薦入試のアドミッションポリシーで、学生像について「入学試験の得点だけを意識した、視野の狭い受験勉強のみに意を注ぐ人よりも、学校の授業の内外で、自らの興味・関心を生かして幅広く学び、その過程で見出されるに違いない諸問題を関連づける広い視野、あるいは自らの問題意識を掘り下げて追究するための深い洞察力を真剣に獲得しようとする人」を期待するとしており、海外や社会貢献の活動が活発な同校はぴったりだからだ。

 このように、東大や東北大の総合型選抜や学校推薦型選抜が高校教育の多様化に結びつけば、それは大きな副産物と言えよう。

(文=木村誠/教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

東京大学、推薦入試の枠拡大は女子受験生が狙い?東北大学はAO入試入学者が国立大で突出のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!