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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

ダイドー、『鬼滅の刃』コラボで利益爆増…コモディティ化した缶コーヒー市場から脱却なるか

文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授
ダイドー、『鬼滅の刃』コラボで利益爆増…コモディティ化した缶コーヒー市場から脱却なるかの画像1
ダイドーブレンド「鬼滅の刃コラボ缶」

 11月24日、ダイドーグループホールディングスの株価は5960円となり、年初来高値を更新した。その理由は、グループの中核企業であるダイドードリンコ(以下、ダイドー)のコーヒー飲料が極めて好調に推移しているためである。すでに多くの人がご存じと思われるが、『鬼滅の刃』とコラボした缶コーヒーがまさに“バカ売れ”の状況となっている。

ダイドーの歴史:置き薬から自販機での缶コーヒー販売へ

 ダイドーのコア・コンピタンス(競合他社に真似できない核となる能力)として、日本中に設置された自販機マネジメント能力を挙げることができる。他社と比較しても、自販機による売上比率は極めて大きい。その歴史は古く、自動車の交通量が飛躍的に増大した1970代、国道沿いのパーキングやガソリンスタンドに自販機を設置して缶コーヒーを販売したところ、トラックドライバー中心として人気に火がついた。

 ちなみにダイドーは、もともとは一般に“置き薬”と呼ばれる配置薬業から始まった企業であり、置き薬から自販機での缶コーヒー販売へと“箱”をキーワードに、見事な多角化を実現している。ダイドーのホームページでは、「お客様の身近な場所に“箱”を構え、その箱を通じてお客様の暮らしに役立つ商品をお届けするという考え方は、今でも私たちの発想の原点となっています」と謳われている。

 1969年にUCC上島珈琲が世界で初めて缶コーヒーを開発し、販売して以降、ダイドーをはじめ、缶コーヒー業界においてはコーヒー事業を主とする企業を中心に比較的緩やかな競争環境であった。

 しかしながら、1990年代に入り競争環境は激変する。92年にサントリー(サントリーフーズ)が「BOSS」、97年にはアサヒ飲料が「WONDA」、99年にはキリン(キリンビバレッジ)が「FIRE」を発売するなど、資本力のある異業種メーカーが本格的に缶コーヒー市場に参入してきたのである。たとえば、広告において、「BOSS」矢沢永吉氏、「WONDA」タイガー・ウッズ氏、「FIRE」スティーヴィー・ワンダー氏と、各社超大物を起用し、頻繁にテレビCMが流されていたことを記憶している人も多いのではないだろうか。

 このように、ビールなどアルコールを主たる事業とする企業と比較すれば、大手とはいえ缶コーヒーメーカーは資金力において大きく見劣りする。しかしながら、缶コーヒーメーカーとしてのブランド、全国に張り巡らせた自動販売機、すでに定着していた中高年を中心とするコアなファンなどにより、レッドオーシャン化した缶コーヒー市場を生き抜いてきている。

缶コーヒーと『鬼滅の刃』のコラボ

 それでは、10 月5日に開始されたダイドー缶コーヒーと『鬼滅の刃』コラボの詳細を見ていこう。

 まず対象商品は、「ダイドーブレンドコーヒーオリジナル」「ダイドーブレンド 絶品微糖」「ダイドーブレンド 絶品カフェオレ」の3商品となっている。3商品に計28 種類の『鬼滅の刃』のデザインパッケージが施されている。

 さらに、アニメ『鬼滅の刃』の声優による缶のデザインごとに異なる全28種の「『鬼滅の刃』オリジナル励ましボイス」、メインキャラクターのひとりである竈門禰豆子の竹筒をモチーフにした「禰豆子の竹筒スピーカー」なども用意されている。

 2021年1月期の連結純利益に関して、従来予想は前期比72%減の5億円であったが、『鬼滅の刃』とのコラボ効果により、41%増の25億円の見込みに修正された。ダイドーのコーヒー飲料の売り上げを見ると、コラボが開始される前月の9月は対前年比で74.3%にまで落ち込んでいたものの、コラボが始まった10月は149.5%、11月も110.3%と前年を上回る業績に転化している。

 さらにチャネルごとの売り上げでは、10月において自販機チャネルが119.4%である一方、コンビニやスーパーなど店舗を中心とした流通チャネルでは234.9%という驚異的な数字となっている。

 とりわけ流通チャネルの売り上げが好調に推移している要因としては、もちろん、普段は缶コーヒーを飲まないが熱烈な『鬼滅の刃』ファンであるがゆえに購買した人たちの影響もあるだろう。だが、店で缶コーヒーを購入する際は他社商品との比較検討を通じて購入という消費者行動となるものの、その際に『鬼滅の刃』デザインパッケージが重要なアイコンとして機能し、普段購入している缶コーヒーからスイッチしている消費者も少なくはないだろう。

 また、自販機との対比に関しては、店のメリットとして、お気に入りのキャラクターを確認したうえで購入できる点を挙げることができる。

コモディティ化した商品のマーケティング

 10月初旬、自販機で『鬼滅の刃』とコラボした缶コーヒーを見かけた際、ダイドーの対応の早さには感心したものの、まさかここまで売り上げに大きく寄与するとは、まったく想像していなかった。まさに、マーケティングの重要性を世間に知らしめる事例といえよう。

 また、缶コーヒーと『鬼滅の刃』のコラボがここまで成功を収めた背景として、『鬼滅の刃』が空前の大ブームになっていることはもちろんのこと、コモディティ化してしまっている缶コーヒーという事情もあると思われる。

 コモディティ化とは、機能的価値を中心に商品間の差異がなくなることを意味する。もちろん、飲料の場合、個人の好みは異なるが、一般に現代の日本において明らかにまずい缶コーヒーは存在しない。こうした場合、消費者は概ね、より低価格の商品を購入することになってしまう。もしくは、強いブランドを確立し、低価格競争を回避するかである。

 マーケティングは、もともとは石鹸やコーンフレークなどを対象として発展してきたが、その理由はこれらの商品は早期よりコモディティ化しており、よって差別化のためのブランドの確立が必須であったからである。

 長い歴史を持つダイドーには多くのファンが存在するが、中高年が中心で、若者の取り込みは重要な課題である。今回のコラボにより、多くの若者との接点ができたと思われるが、一過性に終わらず、いかにしてファンになってもらい、長期にわたる関係を構築できるかが重要になる。今後のダイドーの取り組みに期待したい。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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